【現場】「汚染水その後の30年」を嘆く福島の漁業者、その海には避暑客らが
福島第一原発の汚染水海洋放出から1年…25日まで8回目の放出
「日本政府と東京電力はこの1年間、処理水(汚染水)の放出で今は人々の体に異常がないと言うが、10年、20年、30年後にどんな影響があるのか誰も断言できない」 18日、福島県の漁村の新地町で会った漁師の小野春雄さん(72)は、日本政府が昨年8月24日に始めた福島第一原発の汚染水放出についてこのように嘆いた。父親と祖父が漁師で、自身も15歳から海で仕事を始めた。3人の息子も家業を引き継いだ。孫たちも福島県に住んでいる。しかし、2011年の福島第一原発の放射性物質漏れ事故で、小野さんの人生は大きな変化を迎えた。 事故後、福島の漁業は大打撃を受け、中断された。日本政府は2020年にすべての魚種に対する出荷制限を解除し、福島沿岸の漁業者たちも期待に胸を膨らませたが、昨年には汚染水放出という事態に見舞われた。日本政府は放射能汚染水を多核種除去設備(ALPS)を通して、水と似た性質を持つ「トリチウム」を除く放射性物質を基準値以下に除去した後、海水で薄めて海に流すため被害はないとし、福島の漁業者の反対を押し切って汚染水の放出を強行した。 日本では、福島産の水産物を買わないのは、デマによる被害を意味する「風評被害」と主張されている。しかし、小野さんは「汚染水を数十年間(海に)放出するのに、トリチウムなどによる海の被害を本当に予測できるのか」と語った。 「これ以上海を汚すな!市民会議」の活動家、片岡輝美さんはハンギョレとの電話インタビューで、「子どもたちにこの近くで獲れたどの魚を食べさせたらいいのか、心配は尽きない」と話した。また、「漁業者の中には、自分たちが怒れば怒るほど水産物が売れなくなるという矛盾した状況で、声をあげづらいという人も多いようだ」と語った。 元東京海洋大学教授の濱田武士さん(水産学)ら専門家8人は、著書『どうするALPS処理水?科学と社会の両面からの提言』で、現地の漁業者たちは処理水の放出を認める場合は「海を売った」、反対する場合は「国益を損ねる」と批判されるとし、(日本政府が)政治的責任を漁業者に転嫁していると批判した。 一方、新地町から南に25キロメートル離れた福島県南相馬市では、市の運営する北泉海水浴場で避暑客が海水浴を楽しんでいた。わずか25キロメートルの距離の福島第一原発では7日から「8回目の汚染水放出」が行われているが、避暑客は海水浴に余念がなかった。ここを訪れたある避暑客は「水質が良くて2人の子どもと泳いできた。放射線は全くない」と日本政府の発表を完全に信頼しているようだった。 東京電力は昨年8月24日以降、すでに7回にわたり汚染水の放出を行った。1回の放出に約17日かかり、一日約460立方メートルずつ、計7800立方メートルの汚染水が排出される。これまで計5万4734立方メートルの汚染水が海に流れた。7日に再び8回目の放出が始まり、25日に終了する予定だ。 汚染水は2011年の東日本大震災の福島第一原発爆発事故後、原発に雨水などが流れ込み、放射性物質と接触したことで発生している。東京電力は事故後、汚染水を水タンクに保管してきたが、福島第一原発の廃炉作業のため、これ以上水タンクを増やすことはできないとし、2021年4月に汚染水の海洋放出を決めた。東京電力は19日現在、タンクに保管されている汚染水は131万立方メートルで、タンクの収容限界の96%を占めていると発表した。 日本政府はALPSでトリチウムを除く放射性物質のほとんどを基準値以下に除去するため、汚染水ではなく「処理水」だと主張する。放出前に汚染水を海水に混ぜて薄めた後、福島沿岸へと続く1キロメートルの海底トンネルを通じて流している。 日本政府は汚染水が海の環境と人体に及ぼす悪影響が極めて微々たるものだと主張している。安全性を示すとしてALPSで濾過されたいわゆる「処理水」の中でヒラメなどを育て、これをソーシャルメディアのX(旧ツイッター)などで3~4日おきに公開している。 東京電力はこの1年間の汚染水の排出過程で出たトリチウムの総排出量は8兆6千億ベクレル(2023年4.5兆ベクレル、2024年8月現在4.1兆ベクレル)になるとみている。韓国の古里(コリ)原発から出るトリチウム(1年に49兆ベクレル)より低い数値だと主張する。日本は汚染水の放出前からこのような論理を掲げているが、事故で水素爆発が起きた福島第一原発と正常稼動中の他の原発をトリチウムの排出量だけで比較するのは無理があるという批判が多い。 少なくとも数十年間続く福島原発の汚染水の放出が、いつ終わるのかも分からない。日本は2051年までに福島原発を廃炉することを目標に掲げ、廃炉が完了すれば、これ以上汚染水も発生しないと期待している。 だが、日本は廃炉のために最も重要な作業である「燃料デブリ」(核燃料が溶けて周辺構造物と絡まった塊)の取り出しにはまだ手をつけられずにいる。福島原発1~3号機の原子炉の床に残っている計880トンに達する燃料デブリは、人が近づくと1時間以内に死ぬほどの高線量の放射線を放出する。そのため、人の代わりにロボットが入って作業をしなければならないが、ロボットアームの性能に立て続けに問題が生じている。 東京電力は22日、パイプを遠隔操作する方式で試験的に3グラム以下の燃料デブリを取り出すことにした。事故後13年も経ってから始まったこの試みが成功したとしても、880トンにもなる燃料デブリをいつ全部取り出せるかは不明だ。燃料デブリを除去できなければ、1日80トン程の放射性物質汚染水が発生し続ける。 日本は国際原子力機関(IAEA)を前面に立てて国際世論戦を繰り広げているが、直接影響を受ける周辺国の多くは納得していない。中国は先月30日にも呉江浩駐日大使を通じて「日本が汚染水の海洋放出を一方的に進め、核汚染の危険を全世界に拡散させている」とし、「中国はこれに断固反対する」という立場を示した。 ロシアも、日本政府は日本産水産物の安全性を立証する情報を開示すべきだと主張する。中国は昨年8月24日に日本が汚染水の海洋排出を始めたことを受け、日本産水産物の輸入禁止措置を取り、ロシアも昨年10月、同じ措置を取った。 日本の汚染水管理のミスも批判を呼んでいる。9日、福島原発2号機内部の使用済み核燃料プールから放射性物質を含む汚染水25トンが流れた。東京電力は、汚染水が排水口を通じて建物の地下に流れ込んだものと推定されるとし、外部への流出はなかったと発表したが、管理の甘さに対する批判は免れない。 今年2月には福島沿岸に放出されている汚染水浄化装置から5.5トンが漏れる事故があった。閉まっているはずのバルブが誤って開き、配管に残った汚染水と洗浄用水が混ざって排気口から流れ出たという。昨年10月にも配管を掃除していた職員2人が汚染水を浴びて治療を受けたことがある。 2011年の福島原発事故の責任を問うため、事故当時の東京電力の経営陣を告訴した「福島原発告訴団」の原告団長、武藤類子さんは、ハンギョレに「東京電力は汚染水の放出後、海の放射性物質は大きく増えていないと主張するが、放出によってどんな影響が発生するかは誰も分からない」とし、「APLSの処理過程で汚染水が漏れたことまであるのに、汚染水の放出を直ちに中止してほしい」と語った。 「これ以上海を汚すな!市民会議」など、日本の市民団体は汚染水の放出開始から1年となる今月24日、汚染水放出中止に向けた国際連帯行事「グローバル行動2024」を開くことにした。 福島/ホン・ソクチェ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )