「禁酒」も場合によっては逆効果?アルコールと健全な関係の築き方
アルコールが心身に与える影響
アルコールが健康、もっと言うと体内のすべての臓器に悪影響を与えるのは明白な事実。飲酒は200種類以上の疾患と数千のケガに関連していて、飲酒が原因の死亡者数は全世界で年間300万人とされている。今年1月にはアルコールががんの直接の原因であることが証明された。 飲酒における性差は時代と共に縮まってきたけれど、女性は男性よりも少ない量を速いペースで飲むと言われており、その生理学的な影響が近年の研究で明らかになってきた。一例として、女性の脳のセロトニン神経系は過剰な飲酒が4年間続くだけでダメージを受けてしまい、その結果セロトニンの分泌が阻害され、判断や自制、感情調節に関与する脳の領域にも危害が及ぶ。これが男性の場合には、過剰な飲酒がプラス8年続かないと同じ変化が現れない。 「女性の場合は過剰な飲酒でホルモンバランスが崩れてしまい、生理不順や排卵障害が生じることもありますね」と説明するのは、グローバルな不妊治療クリニックNOW-fertilityの創設者で産婦人科顧問医のルチアーノ・ナルドー教授。「そうすると、不妊や流産のリスクが高くなります」。これが理由で世界保健機関(WHO)も、2021年6月に発表されたガイドラインの草案に「出産可能年齢の女性が妊娠を望む場合は飲酒量を制限するべき」という一文を付け加えた。ちなみに、この一文は完全な禁酒を勧めるものではない(各国のマスコミはそう解釈してWHOを激しく非難したけれど)。
絶対禁酒主義に潜む危険性
賢い女性は完全に禁酒するべきというウィタカー氏の主張は正しいのだろうか? 禁酒が睡眠の質や活力、体重や免疫力、ストレスによい影響を与えることは科学的に何度も証明されていて、このような研究結果に異論を唱えるのは難しい。でも、人間が体に悪いからというだけで何かをやめる生き物じゃないことは人類史が証明している。女性を奮い立たせるようなウィタカー氏のメッセージは、たしかに多くの人の心を捉えた。でも、絶対禁酒主義が最善かつ唯一のオプションであるという考え方は決して万人向けじゃない。 エミリー(仮名)は2022年1月のドライジャヌアリーを(本人の34歳の誕生日会があったにもかかわらず)余裕で乗り切り、活力と意欲に満ちていた。当面の間お酒は飲まないという自分の意思も周囲の人に堂々と伝えていた。 「でも、とある金曜日、友人宅で開かれるディナー会までに1時間ほど時間があって、オシャレなバーに入りました。そこで私は禁酒の誓いを破り、高価な赤ワインをグラスで飲んでしまいました。しかも、私はボトルを買って友人の家に持って行き、ほとんどを自分1人で飲みました」とエミリー。「翌朝、目が覚めてからは自分が恥ずかしくて仕方なく、あまりにも意志の弱い自分を責めました。金曜日に友達と何杯か飲んだだけですが、自分が設けた基準を満たせなかったという考えにとらわれてしまったんです。もともと維持することが不可能な基準だったにもかかわらず」 それからは飲むことばかり考えている。「あの一件を通して私は、さまざまなメリットのために始めた禁酒が一種の自分イジメになっていることに気付きました」。しかも、彼女を叩く棒は彼女が女性であるがゆえに大きい。「男性は、私たち女性と同じ強さ、同じ声の大きさ、同じ判断基準で、お酒をやめろと言われること(あるいは自分に言い聞かせること)がありません」 フィットネスコミュニティ『Ladies Who Crunch』の創設者でパーソナルトレーナーのナンシー・ベストも、禁酒のトレンド化に疑問を感じている。最近は顧客からアルコールがトレーニングに及ぼす影響について聞かれることが多くなった。「飲酒量を制限するのは間違いなくよいことですが、お酒を飲むことが“善”か“悪”の二元論(二者択一)になっていて、人々が飲酒量にこだわりすぎているのは怖いですね。もはや“クリーン・イーティング”の領域に入りつつあるような感じがします」。クリーン・イーティングは、一時的に流行ったものの、オルトレキシア(摂食障害の一種)を引き起こすとしてウェルネス業界から完全に干されたトレンド。「健全な妥協点はないのでしょうか?」