倒産は悪いことなのか…意外と知らない「日本企業の現実」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
論点2 企業の市場からの円滑な退出をどう支援するか
人口減少経済においては、現在ある企業のすべてがそのまま継続するという将来を予想することはできない。そう考えれば、これからの日本経済におけるさらなる論点として浮かび上がってくるのは、企業が市場から退出する局面に対して、社会全体としてどのように向き合っていくのかという点になるだろう。 企業の開廃業率を国際比較したデータによると、日本では海外と比べて開業する比率と廃業する比率はともに低い(図表3-7)。こういったデータを踏まえれば、これまでの日本の市場においては、新陳代謝が必ずしもうまく機能してこなかったと考えることもできる。 これまで、政府は企業に対してさまざまな保護政策を取ってきた。たとえば、コロナ禍における緊急事態においては、多くの企業に雇用調整助成金の給付や実質無利子・無担保のいわゆるゼロゼロ融資が広く適用されてきた。 リーマンショック後に一時導入された中小企業金融円滑化法なども含め、これまでの景気後退局面における企業に対する資金繰り支援については、その時々の企業の事業継続に貢献した一方で、生産性の劣る企業への延命策につながったという批判もある。 また、こうした経済のショックの有無にかかわらず、平時においても政府は中小企業などに対するさまざまな補助金や税制優遇策を講じている。 過去の人口増加と経済成長が並立していた時代においては、新たな産業の創出や地域の雇用の担い手として、経営力に劣る企業を支援、育成することには大きな意義があった。しかし、これからの人口減少時代においては、既存の企業を保護するだけではなく、現在ある企業が集約化していくなかでいかに力をつけていくかを考えていかなければならない。 この点において、近年では政府もこれまでとは異なる施策を講じはじめている。たとえば、2024年には政府はこの年を「中堅企業元年」と位置づけ、政府による支援策を中堅企業に集中することを表明している。中小企業に対する手厚い支援がかえって企業規模拡大を抑制しているという問題意識に立ったうえで、企業が事業規模を積極的に拡大し、成長をしていくためのインセンティブ体系を構築することとしているのである。 さらに、こうした施策が企業の成長を促すための表面であるならば、裏面でもある企業の市場からの円滑な退出のための支援にも今後焦点を当てる必要があるだろう。 たとえば、現在、企業が金融機関から融資を受ける際、経営者がその事業の連帯保証人になる個人保証が広く行われている。しかし、個人保証を行ったがために、経営が行き詰まったときには経営者個人の財産が金融機関からの取り立ての対象となってしまい、その財産のすべてを失うようなケースも珍しいものではない。 『ほんとうの日本経済』で紹介した数々の事例にもれず、多くの経営者は自身の利益追求は当然のこととして、自社の従業員のがんばりに報いるためにも、また社会の期待に応えるためにも、日々最大限の経営努力を行っている。 しかし、今後、働き手が急速に減少していく厳しい市場環境においては、経営者の懸命な努力の結果として、企業が市場からの退出を迫られるという事態は、現実問題として生じうる。そうなったときに、こうした経営の責任のすべてを経営者個人に帰すような商習慣は、はたして適切といえるだろうか。 経営者の個人保証に関してはガイドラインの策定など政府も対策を講じているところではあるが、企業経営者が廃業後も安心して生活を営めるような環境を創出するためにも、また有為な経営者が再度挑戦できる環境を整えるためにも、今後、より一層踏み込んだ対策が必要になってくる。政府もそのための財政支援ということであれば、これを惜しむべきではない。 人口減少が本格化するこれからの時代においては、人手不足の深刻化とともに労働者の立場が相対的に強くなっていく可能性が高い。こうした局面に差し掛かっている現代だからこそ、果敢にリスクを取って経営を遂行しようとする企業経営者の挑戦を、社会全体として応援していかなければならない。そして、厳しい経営環境の中でそれでもどうしても経営に困難が生じたときには、経営者の勇気ある決断を後押しするような仕組みも構築していかなければならない。 人口減少時代における市場メカニズムが引き起こす企業の新陳代謝への圧力に関しては、経営者個人の問題に帰着させるのではなく、社会全体として向き合っていかなくてはならないのである。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)