5か月の営業停止もリストラせず コロナ禍と向き合う木下大サーカスの「鉄則」
来年120周年を迎えるエンターテインメント集団、木下大サーカス。コロナ禍の影響で5か月におよぶ営業休止期間がありながら、ひとりもリストラせずにさらに観客を魅了している。その背景を取材した。(ライター:中村計/撮影:遠崎智宏/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部、文中敬称略)(敬称略)
すぐに戻ってきたお客さん
「無理、無理、無理っ!」 「ヒヤヒヤし過ぎて、しんど(い)!」 大掛かりな奇術、ライオンショー、そして空中ブランコ等々、スリル満点の演目が約2時間、間断なく続き、観客は興奮しっぱなしだった。 昨年3月ごろから、新型コロナの感染拡大により、世界中のほとんどのエンターテインメント業界が一時、完全休業状態に陥った。現在は入場制限などの条件つきながら、徐々に有観客にシフトしつつある。しかし、いったん離れた客はそう簡単には戻ってこない。 ところが、1902年創業の老舗エンターテインメント集団、木下大サーカスは、客が「忘れる」どころか、待ちわびていた。 7月初旬の週末、約2000席ある客席の開放率は75パーセントほどに抑えていたものの、連日、ほぼ満員の客入りだった。 1950年生まれ、4代目社長の木下唯志の顔がほころぶ。 「こんなにすぐお客さんが戻ってきてくれて。奇跡ですよ」
木下大サーカスは全国津々浦々、およそ2カ月半ごとに公演場所を移す。どんな場所でも3年から5年は間隔を空ける。客を飽きさせないためのサーカス商法だ。この夏は、3年ぶりに大阪に帰ってきた。 古いアメリカ映画の中の世界のようだった。大阪城公園駅を降り、公園内に歩を進めると、思わずため息が出た。真っ赤な亀の甲羅。そう形容したくなるような巨大テントが目に飛び込んできた。新調したばかりのイタリア製特注テントだという。
見た目はクラシカルだが、サスペンションの利いた6本の鉄柱で支えられたテントは震度5程度の地震、あるいは風速38メートルくらいの風にも耐えられる構造だという。夏は屋根に取り付けられたスプリンクラーから水を流し、室内の気温上昇を抑えている。 団員自ら4日がかりで組み立てる。ベテラン団員の中園栄一郎(48)が誇らしげに説明する。 「水道とかは専門の業者に頼みますけど、9割方、うちの団員だけでやります。溶接ができる団員もいるので、補修も自分たちでやる。女の子でも釘を打つし、たくましいもんですよ」