【なぜ大事? 足の健康③】江戸時代の人はなぜ、1日6~8万歩も歩けたのか? 日本人の足トラブルの原因は“靴”
(柔道整復師・鍼灸師 前田直樹) 今や多くの日本人が足のトラブルを抱えています。 親指が〝くの字〟に曲がる外反母趾は成人の4人に1人。爪が内側に巻いて皮膚を挟み、痛みを生じる巻き爪は10人に1人。長く変形性膝関節症の痛みで苦しんだ末に人工膝関節置換術の手術をした人は年9万人以上。いずれのトラブルも増え続けています。 厚生労働省の調べでは、20歳以上の1日の歩数は平均して男性が6465歩、女性が5820歩。この10年で約700歩も減っています。ネット通販やウーバーイーツなどのフード宅配、生活家電の自動化などで私たちの生活が便利になっていくことは、足のトラブル増加と因果関係にあるかもしれません。
失ったもの
江戸時代の人々は1日30~40㌔歩いていたと言います。1歩50㌢で計算すると6~8万歩。現在の10倍以上です。 しかし、毎日そんなに歩くと足が痛くなってボロボロになりそうです。私はどうしてそんなに距離を歩けるのかと疑問を持ち、調べました。すると、当時の人々が履いていた草履(ぞうり)や草鞋(わらじ)が、歩くときに足の指をちゃんと使えるような履き物だったことが大きいと気づきました。 私は足のトラブルの原因は、足の指の環境に最も影響を与える靴に問題があると考えています。 日本に靴が入ってきたのは、幕末から明治初期のあたり。坂本龍馬が活躍していた頃です。そこから一般市民が靴を履き始めるようになったのですが、日本の靴の歴史はまだ100年ほどで非常に浅いのです。 本来、足を保護するはずだった靴は、いつしかデザインが重視されるようになります。つま先の細い靴やヒール靴は足の指を変形させ、靴の中では親指をほとんど動かせないので、本来の地面をつかむ足の動きができず、どんどん足の指を退化させているのです。
足裏は「第三の心臓」
ふくらはぎは「第二の心臓」と言われます。これは、心臓から遠い場所にある足の血液を、ふくらはぎの筋肉の収縮で心臓に送り返す役目があるからです。このふくらはぎが上手く使えていないと、むくんだり冷えたり体に不調をもたらします。そして、そのふくらはぎに並んで「第三の心臓」と言われるのが実は足の指なのです。 足の指は心臓の一番遠い場所にあり、ここも足の指を動かすことによるポンプ作用で血液を送り返しています。足の指が機能していないと、末端冷え性、爪が小さくなる、むくみなどが起こります。 さらに、足裏は親指と小指、かかとの3点でアーチを作って重心を正しい位置に保つ重要な役割を担っています。足の指が弱ってこのバランスが崩れると、まっすぐ立つために他の筋肉に負担がかかります。少し体を傾けると体の他の筋肉に無駄な力がかかっていることを感じるように、ひざや腰、肩などに余計な力がかかり痛くなるのです。 また、歯のかみ合わせも悪くなり、痛みだけでなくあごがずれ、口がぽかんとなり開き、顔の見た目も変わってしまいます。 次々に足のトラブルを引き起こしてしまう現代の靴。江戸時代の人々のように日本人に健康な足の指を取り戻すにはどうしたらいいかを考え、私は靴を開発することにしたのです。しかし、そのためにはどのような形が適しているのか。どうやったら靴の中で足の指が使えるのか。その答えとして、日本の伝統の足袋の形に行きつきました。そして昨年ようやく「PODOWALKⓇ」と名付けた足袋シューズを完成させたのです。 足袋は無意識に歩いても足の指を使えるので、足の裏で地面をつかむ足趾力(そくしりょく)を鍛えるのに効果的です。現在は、この足袋シューズを使い、年間2回のウォーキングイベントも開催しています。