本郷和人『光る君へ』なぜ平安貴族は庶民に向き合わないまま、優雅に暮らすことができたの?その理由は単純に…
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。8月4日の第30話「つながる言の葉」では夫の死から三年、まひろは四条宮の女房達に和歌を教えながら自作の物語を披露し、都中で話題になっていた。ある日そこに歌人のあかね(泉里香)がやってきて――といった話が放送されました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるシーンを解説するのが本連載。今回は「庶民に目を向けない貴族たち」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 次回の『光る君へ』。まひろに<娘・彰子を慰めるための物語>を書いてほしいと頼む道長。しかしその真の目的は…<ネタバレあり> * * * * * * * ◆ドラマ内にて大干ばつに襲われた都 現在、お休み期間のドラマ『光る君へ』。 ドラマ内では、一条天皇が定子を失ってから四年経ちました。しかし、天皇はそのショックからまったく立ち直れず、政を疎かにしています。 そうこうしている間に、都が大干ばつに襲われてしまいました。水を巡り、多くの庶民が苦しむ事態に。 そこで、やむなく道長が隠居した安倍晴明に頼み込み、雨ごいをしてもらったことで、何とか危機をしのぐことができました。 しかし干ばつがおさまった後も、一条天皇はさらに定子との思い出に閉じこもり、その思い出を記した『枕草子』にどっぷり。そのため天皇の関心が娘・彰子へ関心を向くよう、道長らも必死に…。 そんな感じで、道長ひとりはあちらこちらへ頑張っている印象がありつつも、基本的にドラマ内の貴族らにとって、庶民たちの生活は二の次の扱いとされている印象があります。 それでも貴族は十分に優雅な暮らしを続けることができている。それはいったいなぜなのでしょうか?
◆攻められて国が滅んだ場合 国を基準に考えてみましょう。 強大な他国が攻めてきて、国が滅んだらどうなるか? まず、その国で暮らしていた庶民たち。 彼らはこれからも食料なり品物を作り、ずっと支配者層へ上納し続けてもらわないと困るので、滅ぼされることはありません。もちろん、厳しい差別を受け、プライドもずたずたにされて、「生かさず殺さず」の状態に置かれるわけですが。 一方で、支配者層。 彼らへの風当たりは苛酷をきわめます。たとえば王族は滅ぼされるでしょう。だれが新しい王か、民に見せつけるためです。そして万が一、生き延びた王族のもとに<反乱の旗印>として、民が結集すると厄介だからです。 そのうえで、貴族はどうか。 貴族というのは王族を支える者たちですから、これまた排除される可能性が極めて高い。 なかには処世に巧みで、外来の支配者にすすんで媚びへつらい、新しく作られる支配システムの一部に、自身の位置を作り出す者もいるかもしれない。でも、それは少数です。王族との距離が近ければ近いほど、王族と共に排除される可能性が高いと言える。
【関連記事】
- 次回の『光る君へ』あらすじ。まひろに<娘・彰子を慰めるための物語>を書いてほしいと頼む道長。しかしその真の目的は…<ネタバレあり>
- 『光る君へ』二人の妻・倫子と明子の着物はまさかオソロ!?静かすぎる激突に視聴者「逆に怖すぎ」「道長、絶対に目を開けてはいけない…」「病状がますます悪化」
- 道長権力増大の中で直面した姉・定子と兄・伊周の死…『光る君へ』で竜星涼さん演じる<闘う貴族>隆家が日本を危機に陥れた異賊「刀伊」を迎え撃つまで【2024年上半期BEST】
- 『光る君へ』12歳で入内後、出産まで実に10年を要した道長の娘「いけにえの姫」彰子。苦しんだであろう日々が『源氏物語』にも影響を…その生涯について
- 下重暁子 藤原道長からいじめ抜かれた定子を清少納言は懸命に守ったが…紫式部が日記に<清少納言の悪口>を書き連ねた理由を考える