【トップに聞く 2024】アダストリア 木村治社長 過去最高業績の先に見るもの
FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2024」。アフターコロナにシフトした状況下で各企業に求められている「イノベーション」をテーマにお送りする。 【画像】インタビューに対応するアダストリア 木村社長 第15回はアダストリア 木村治社長。コロナ禍で現代表取締役会長の福田三千男氏から社長職を引き継いで約3年。2024年2月期では、売上高、営業利益ともに過去最高業績を見込んでいる。学生に対する「就職意識調査」で「注目している企業」「就職したい企業」の両部門でトップを走る同社が、今後の更なる成長のために注力していくことは何か。 ■木村治 1969年生まれ。1990年に福田屋洋服店(のちのポイント、現アダストリア)に入社し、スタッフ、店長、エリアマネジャー、本部バイヤーを歴任。2001年に独立し、ワークデザインを設立。2007年にドロップ(のちのトリニティアーツ)と経営統合し、2011年9月にトリニティーアーツ代表取締役社長に着任。2013年からアダストリア取締役、2018年3月から取締役副社長を経て、2021年に取締役社長に就任。2022年から現職。
主力のグローバルワークが年商500億円突破、2024年2月期は過去最高業績見込み
ー2023年はどんな一年でしたか? 2024年2月期(2023年3月~2024年2月)は、売上高2700億円、営業利益180億円とアダストリアとして過去最高の業績を見込んでいることからも分かるように、企業全体としても、社員一人一人としても非常に成長を実感できた一年でした。コロナ禍のイレギュラーな時期にも新規事業やシステム、物流など、必要な領域への投資をやめずに続けてきたことがここにきて実を結んできたように思います。 ー今期のトピックスについて教えてください。 大きかったのは基幹ブランドである「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」がアダストリアブランドとして初めて年間売上500億円を超える見込みであることですね。特に我々のようなマルチブランド戦略を採っている企業が1ブランドのみで年間500億円売り上げるというのは「ニコアンド(niko and ...)」「スタディオクリップ(studio CLIP)」「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」といった、グローバルワークの後に続くブランドの明確な目標になるので非常に大きな価値があると思っています。 ーグローバルワークの売上がここまで拡大した要因は? 単純にこれまでの積み重ねですね。失敗してはリブランディングして、一進一退を繰り返しながらブランドを続けてきましたが、その中で蓄積されたブランドや商品への信頼がこの数字に繋がったのだと思います。あとは、プロモーションを効果的に使えたこと。テレビCMが好評だった「ウツクシルエットパンツシリーズ」は累計販売数400万本、「メルティニット」は累計販売数300万本を達成しました。グローバルワークは30年かけてようやく年間売上500億円の大台を達成する見込みですが、成功体験を上手く横展開できれば、後続のブランドはそこまで時間をかけずに同水準まで成長できるのではないかと考えています。 ーそのほかの今期の好調の要因は? コロナ禍で積極出店を続けたライフスタイルブランド「ラコレ(LAKOLE)」が前期比38%増と大きく売上を伸ばしました。あとは、公式オンラインストア「ドットエスティ(.st)」の会員数が前期末から160万人増え、1700万人を突破したことも業績に寄与したと思いますね。アダストリアの1つの強みはリアル店舗とドットエスティの相互送客なので、ドットエスティの会員が増えるに従いリアル店舗の売上も増えるといった好循環が生まれました。 ー2023年は本格的に「アフターコロナ」に移行しました。 コロナ禍で3ヶ年計画を立て、今期はその最終年度なのですが、計画通りに事業を展開できたことは自信に繋がりましたね。まず1年目は利益を追い求めるのではなく資金確保と未来への投資を最優先に動き、2年目には利益を拡大。3年目は計画の集大成ということで、これまで種蒔き(投資)してきた領域で実を回収し、結果的に過去最高の水準まで業績を引き上げることに成功しました。 ー3ヶ年計画の期間(2022年2月期~2024年2月期)で特に注力したポイントは? セールの抑制です。コロナ禍の苦しい時期では消化率を高めるために値引きするという選択肢もありましたが、セールは多用してしまうとお客様の価格に対する信頼を失い、プロパーで購入していただけなくなることにも繋がりかねませんから。 そのほか、生産の拠点を中国からASEANにシフトし始めました。中国では人件費の高騰で我々の希望する原価で生産を行うことが難しくなってきたということと、ASEAN地域で最新設備の工場がどんどん新設されクオリティ面が格段に向上していることが主な理由です。このように、自発的に行動して利益を確保する仕組みを整えることができたのは、企業努力の賜物だと素直に評価できるでしょうね。 ー昨今は円安が進み、原材料も高騰してます。 一般論として人件費も上昇傾向にあるし、値上げに関して言えばこればかりは仕方ないと思いますね。ただ、一番やってはいけないのは「生地のクオリティを下げて価格を上げる」こと。値上げをするなら生地をグレードアップするとかデザインを突き詰めるとか、何かしらの「付加価値」をつけなければお客様は納得してくれません。また、子会社の「エレメントルール」では比較的単価の高いブランドを展開していますが、元々アダストリアはカジュアルファッションの分野で成長してきた企業なので、お客様が手に取りやすい価格を維持するというのも大前提ですね。