【トップに聞く 2024】アダストリア 木村治社長 過去最高業績の先に見るもの
オンライン成長のカギはリアルとの融合、OMO店舗を増やしEC売上800億円突破へ
ー昨年10月には、飲食事業を手掛ける子会社 アダストリアイートクリエイションズの債権を手放すことを発表しました。今後の飲食事業の計画は? 2021年に子会社化したゼットンに飲食事業を集中させます。アダストリアはフードビジネス展開を目的として2017年にアダストリアイートクリエイションズを設立しましたが、ゼットンを子会社化したことである程度その役割は終えたかなと。国内アパレルの市場規模が9兆円弱であるのに対して飲食の市場規模は30兆円ほどとパイはかなり大きいので、ファッション関係のリアル店舗と掛け合わせるなど工夫しながら、アダストリアなりの方法で飲食事業も強化していく方針です。 ー2023年11月にはフィリピンで子会社を設立。今後の海外事業戦略について教えてください。 市場規模を考えると、やはりアメリカで成功したい気持ちはありますね。ただ、同時にサイズ感やテイストなど課題は多く、海外で特に収益化が難しいのもアメリカだと思っています。サイズ感に関しては「アメリカの商品だけサイズ規格を変える」くらい思い切ったことをしないとまず上手くいかないと思いますし、テイストに関してはマルチブランドで展開している強みを活かしながら、2017年に子会社化した米アパレル企業のVelvetを筆頭にどのブランドがアメリカ市場にマッチするのかを精査する必要があるなと。本当はアダストリアの顔であるグローバルワークやニコアンドをアメリカに持っていきたいですが、そんなに簡単な話ではないと理解しているので、慎重に戦略を練っていきます。 ーコロナ禍の3ヶ年計画とは別に策定している中期経営計画では、2026年2月期までにEC売上800億円を掲げており、2023年2月期終了時点で626億円まできています。 ここまで順調にきていますが、EC売上800億円を目指すには、従来のEC業態では難しいと見ています。ECには無限の可能性があると考える方もいるかもしれないですが、アメリカで年間の配送個数が下り坂となっているように、少子高齢化が進んでいる先進国ではECの市場規模にも当然限界があります。日本では物流に携わる人材の減少もあり、今後ECで頼んでもすぐに届かなくなるかもしれません。 ーそうなると、直接店舗に店舗に取りにいった方が早いかもしれませんね。 そうなんです。だからアダストリアでは、リアル店舗を全国に展開している強みを最大限活かすべく、ECで注文したアイテムを店舗で受け取ることができるOMO型店舗を増やしています。オンラインとオフラインを上手く掛け合わせることが、EC売上800億円達成のカギになるでしょうね。 ードットエスティでは、外部ブランドが続々と出店しています。 外部でいえば、現在はランジェリーブランド「ピーチジョン(PEACH JOHN)」など8社9ブランドがドットエスティに出店してくださっています。今後もブランド数を増やしていきたいとは思いますが、かといって闇雲に増やすつもりは一切なくて。見境なく出店ブランドを増やせばEC売上800億円は余裕で達成できると思いますが、それは長期的に見ればモールの価値を落とすことに繋がり、アダストリアにとってプラスにはならないと考えています。ドットエスティと掛け合わせることでより真価を発揮してくれるような相性の良いブランドさんとご一緒できたら嬉しいですね。自社ブランドと外部ブランドの比率は特に決めておらず、最終的には「ドットエスティを見えば何か欲しいものが見つかる」とユーザーに信頼されるECモールを目指していきます。 ー将来的なEC化率についてはどう考えていますか? EC化率についても重視していないです。結局比率の話で、リアル店舗を減らせばEC化率は高くなるので。先ほどもお伝えしましたがアダストリアの強みの1つはリアル店舗を全国に展開していることなので、今後もリアルとECのどちらかではなく、両方をバランスよく伸ばしていくことを意識していきます。 ーEC事業を更に飛躍させるために、今後の戦略は? 5年後、10年後のEC事業の成長を考えると、スタッフボードの発展が重要な役割を担ってくると思います。例えば最近では、JR九州さんと協業してスタッフボードの人気スタッフが電車に乗って九州を訪れ、ホテルや食事など旅の様子をドットエスティで発信する取り組みを実施したところ好評でした。他社のコンテンツをスタッフボードと絡めて顧客を呼び込み、ECの売上に繋げるといった施策はかなりの可能性を秘めていると感じているので、今後もできることを考えて実行していきます。