【トップに聞く 2024】アダストリア 木村治社長 過去最高業績の先に見るもの
ーエレメントルールの調子はいかがですか? もちろん全てのビジネスが手放しで安心できる状況ではありませんが、比較的順調だと思います。特にセレクトショップ業態「カオス(Chaos)」は好調ですね。出店依頼もたくさんいただいていますが、ハイエンドなビジネスモデルなのでロケーションを選びながら慎重に店舗数を拡大しています。3月に「ギンザシックス(GINZA SIX)」に新店舗をオープンしたように、今後もアダストリアではカバーでしきれないニーズを獲得するために積極的に展開を続けていくつもりです。
フォーエバー 21は苦戦も...「ライセンス事業はアダストリアの核になり得る」
ー社長就任から約3年。振り返っていかがでしょうか。 僕はトリニティアーツで社長をしていましたし、アダストリアで副社長として勉強させていただいた時期も長かったので必要以上にプレッシャーを感じることなく楽しみながらやってこられたかなと思います。とはいえアダストリアの社長ともなると1万人以上の社員とその家族の生活を預かる責任があるので、その自覚は常に持ちながら日々の業務にあたっていますね。 ー社長に就任してから特に意識したことは? 福田会長とお話ししたのは、企業価値をどうやって上げていくかということ。社長に就任するまでは売上を伸ばせたら良いのでは、と漠然と考えていたんですが、社長になると「どのようにして企業価値を高め、株価を上げていくか」といった考え方の重要性に気付かされました。先ほどお話した3ヶ年計画などを通して、結果的に株価は右肩上がり。僕が社長に就任した時と比べて株価は現在2倍近くまで上がっているので、ここまでは自分の仕事をある程度はできているのかなと思います。 ー責任あるお立場ですが息抜きは何を? サウナですね。週に1~2回は通っているんですが、サウナ室にこもっている間だけは無心になれるんです。あとは海外出張の移動時間。色々なことを考えて頭の中を整理できるので、自分にとっては欠かせない時間かもしれません。 ー繊研新聞社が全国ファッション専門学校生約1300人を対象に実施した「就職意識調査」では「注目している企業」「就職したい企業」の両部門でアダストリアが1位になりました。 有難い話ですね。マルチブランド方式を採用しているので、アダストリアに関連するニュースが学生たちの耳に入りやすいというのが一番の要因だと思います。あとは、ここ数年初任給や社員の賃金を上げ続けているのも大きいかもしれません。Z世代の人たちは上の世代に比べて待遇面に関してシビアだという話を聞いたことがありますが、そんな中で「就職したい企業」として1位に選んでもらえたという事実は光栄だし、自信にもなります。 ーそのほか、今の学生にはどういった特徴があると思いますか? サステナビリティへの意識がものすごく高いですね。講演で話をした時「不良在庫はどうやって処理しているんですか」「商品生産の過程で出た残布はどうしているんですか」といった質問を受けて驚きました。物心ついた時から環境に配慮することについての教育を受けてきているので、上の世代とは考えの軸が違う。学生たちに信頼される企業であり続けるためにも、意識をアップデートしてサステナビリティなどについての考えをしっかり発信していかなければと思います。 ー2023年10月には初のフリマサービス「ドットシィ(.C)」を立ち上げました。 何年も前から社員の間で「サステナ意識の高まりもあり、CtoCのマーケットは可能性あるよね」といった話はしていて、ようやく形になりました。オンラインストアのドットエスティにはショップスタッフが日々のスタイリングなどを投稿する「スタッフボード」というコンテンツがあるのですが、人気スタッフの中にはSNSで22万人以上のフォロワーを抱える社員もいるなどインフルエンサー的なポジションを確立していて。「憧れのスタッフの私物を買える」といった仕組みを作れば、スタッフ側からしても着なくなった服を役立てられてサステナブルだし、消費者からしたら販売者の顔が分かって安心感に繋がる。メルカリなど他のフリマサービスと差別化もできるので、「一石三鳥」で面白いのではないかと。しばらくはアダストリア商品だけを取り扱っていたのですが、1月から他社製品の取り扱いもスタートしました。今後もお客様の声を取り入れて、サービスを発展させていくつもりです。 ー2023年2月に「フォーエバー 21(FOREVER 21)」の展開を開始してから約1年。手応えは? 絶好調かと言われるとそうではなく、どちらかというと苦戦していると捉えています。1つの要因は日本ローカライズアイテムにおける価格とデザインのバランス。再上陸にあたり日本のマーケットに合わせたアイテムを企画し打ち出しましたが、フォーエバー 21を知る世代のお客様には若すぎるデザインで、若年層にとっては気軽に手を出しづらい価格設定だったかなと。この部分を反省しながら、今後はもう少し日本企画を増やしていきたいです。