20年間「介護老人保健施設に勤めた医師」が衝撃を受けた、妻を看取った夫の「忘れられない一言」
超高齢社会の日本において、その数は今後人口の3分の1に達すると言われ、ますます介護や入所施設に関心が寄せられるようになりました。 【マンガ】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性の告白 介護施設の種類は多岐にわたり、大きくいえば民間施設と公的施設のふたつに分けられますが、それぞれの特徴の違いからはじまり、最終的にはどのような施設を選べばいいのか、延命はどうするのか、最期はどう送ればいいのかなど悩みはつきません。 今回『最高の介護』を上梓した田口真子氏は、介護老人保健施設(老健)に20年勤めるお医者さん。長年勤めるなかで、病院で働くお医者さんが知らない、介護の現場や実情をたくさん見てきたと言います。 そんな立ち位置から、【前編】<医師が教える…介護問題、家族が施設に入れるタイミングで、じつは「やってはいけない」こと《主体者は誰か》を考える>に引き続き皆さんに「満点の介護とは何か」について、具体例を挙げつつご紹介します。
最高の介護、満点介護とは
ここまで、おもに介護施設にまつわるお話を中心に紹介してきました。 紹介しきれなかった内容「施設入所する際の基礎知識」「延命治療と急変、看取りについて」「誤嚥性肺炎と床ずれについて」「病院と施設、どちらで最期を迎えるか」「在宅介護という選択」「介護側も知っておきたい認知症薬と治療法」「介護の未来」につきましては本書にて紹介しています。 そして、これらを踏まえて最後に最高の介護、満点介護についてのわたしの私見を述べたいと思います。 介護のお医者さんになって20年、いろいろな家族と泣いたり笑ったりしてきました。その中でとくに印象に残っている林さんの話をして締めくくりたいと思います。 林さんは奥さんとご主人の二人暮らし。お子さんはなく、二人で支えあって仲良く暮らしておられました。でも奥さんが脳梗塞で麻痺が残り、排泄はもちろん、立ったり座ったり、すべての日常動作に介助が必要になってしまいました。 最初の数年はご主人がそれはそれは熱心に自宅で介護されていました。でも、奥さんが誤嚥性肺炎で入退院を繰り返したり、ご主人の腰痛が悪化したりと在宅介護が難しくなり、わたしの施設に入所してこられました。 入所された後も、ご主人は毎日のように施設に通って来ていました。少しでも熱が出たらすぐ病院に連れていき、歯医者の往診にも毎回つき添います。 そして入所して数年後、残念ながら、奥さんの状態は悪化して頻繁に熱を出すようになり、食事も難しくなり看取りの時期を迎えました。 奥さんが死んでしまったら、ご主人はどうなってしまうのでしょう。旅立つ奥さんより、ご主人のほうがわたしは心配でした。 ご主人と相談し、奥さんはわたしの施設で見送りました。静かな良い最期でした。その時、ご主人がこうおっしゃったのです。 「先生、わしの介護はどうやった? 100点満点やったやろ?」 わたしの心配をよそに、ご主人は「これからはテニスでも始めようかな」と穏やかにつぶやいて帰っていきました。 わたしは深く感動しました。ご主人だって本当はもっとああしてあげたかった、こうしてあげたかったと後悔もあったはずです。 でも「100点満点」という言葉で締めくくってくださったことで、本当に「100点満点」の介護になったなと感じたのです。