最高級リムジンのプレゼントつき、訪朝して金正恩を歓喜させたプーチン、「ユーラシアの枢軸」形成に大きな布石
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、6月19日午前2時22分、平壌国際空港(順安空港)に降り立った。日本メディアとして平壌に唯一、支局がある共同通信が速報を報じたのは、同日午前2時59分だった。何と非常識な時間! 【写真】19日の首脳会談後に、ロシア製高級車「アウルス」の運転席に座り、助手席に金正恩氏を迎え入れるプーチン大統領。日本円でおよそ7500万円というアウルスを両首脳はこの日、交互に運転を楽しんだ ■ 安倍首相のことも待たせたプーチン 私も徹夜で到着の一報を待っていて、何だか8年前(2016年12月15日)の山口の光景を思い出してしまった。当時の安倍晋三首相が、北方領土問題を少しでも前に進めようとして、プーチン大統領を、故郷・山口の長門湯本温泉にたたずむ「大谷山荘」に招待した。首相時代、計27回もプーチン大統領と首脳会談を重ねた安倍首相は、満を持してこの特大の外交イベントに臨んでいた。 だが、肝心のプーチン大統領は、待てども待てども現れない。待ちくたびれた安倍首相は、父・安倍晋太郎元外相の墓参りに出かけてしまった。 結局、プーチン大統領は、2時間40分も遅れて、日暮れ時に山口宇部空港に到着した。だが、詫びることもなく威風堂々としたもので、むしろ日本側の方が、ヘラヘラと出迎えたのだった。 今回もまさに同様だった。プーチン大統領の24年ぶりの訪朝とあって、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、空港の滑走路に赤絨毯を敷いて、大勢の部下たちを従えて待ち受けていた。 だがプーチン大統領は、やって来ない。しかもモスクワを飛び立ったはいいが、直接平壌へ向かうのでなく、夕刻に極東のヤクーツクに立ち寄ったのだ。そこでITの展示会を視察したり、市民との対話を行うなど余裕綽々(しゃくしゃく)。ようやくヤクーツクを飛び立った時には、夜9時34分になっていた。
北朝鮮側は、「プーチン大統領は18日と19日に1泊2日でわが国を国賓訪問する」と大々的に発表していた。だが、日をまたいでしまったので、それはウソになった。 それでも、19日未明にプーチン大統領が平壌国際空港に降り立つと、金正恩委員長は満面の笑顔と、社会主義国独特の大仰な2度の抱擁をもって出迎えた。そして、プーチン大統領の専用車「アウルス」に、一緒に乗り込んだのだった。 平壌市内まで、車で約30分だが、20台以上ものバイクが先導し、ものすごい車列だ。深夜で目にする人もないのに、路上にはプーチン大統領の巨大な写真が掲げられている。「不敗の朝ロ親善団結万歳!」とハングルで書かれたスローガンも掛かっていた。 ■ 「アウルス」が外交の武器の一つに 両首脳は昨年9月13日、ロシア極東のボストーチヌイ宇宙基地で会談。その時は、プーチン大統領が予定時刻より先に来て、ポツンと立っていた。そこへ金委員長が到着するや、その手を両手で握り締め、40秒間も離さなかった。その後、「アウルス」に招き入れ、金委員長を欣喜雀躍させたのだった。当時のロシアは、喉から手が出るほど北朝鮮の武器が欲しかった。 この時、目ざといプーチン大統領は、「アウルスは外交に使える」と悟ったのだろう。今年2月、同じ型の「アウルス」を、金委員長にプレゼントしたのだった。朝鮮中央テレビは、3月15日に金委員長が行ったイベントに、初めて「アウルス」に乗り込んで訪れた金委員長の姿を映した。さらに今回、2台目のプレゼントを約束したという。かつて、ヨシフ・スターリン大元帥が金日成(キム・イルソン)主席に、「お召列車」をプレゼントしたことを髣髴させるエピソードだ。 ちなみに贅沢品の供与(「アウルス」は日本円で約7500万円もする! )は、ロシアも賛成して決議した2017年12月の国連安保理の対北朝鮮制裁に、完全に抵触している。だが、もはやそんなものはとっくに形骸化している。6月14日に韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防相のインタビューを報じた米ブルームバーグは、すでに最大480万発の砲弾の搬送が可能なコンテナが、北朝鮮からロシアに運び込まれたと明らかにした。