新千歳の「JAL機緊急脱出」に潜むさまざまな危険 重要なCAの役回り
新千歳空港(北海道千歳市)で先月、日本航空(JAL)機のエンジンから発煙し、乗客乗員165人が緊急脱出する航空事故が発生しました。3人がけがをしましたが、死者は出なかったこの事故には、実はたくさんの危険性が潜んでいたと、航空ジャーナリストの藤石金彌氏は指摘します。それはどのようなもので、事故の際はどう対応すればよいのでしょうか。藤石氏の解説です。 【写真】調布の小型機墜落事故 “ガラパゴス化”した日本の航空の課題
4本のスライドで165人が脱出
「右エンジンから火が出ている」 2月23日午後3時ごろ、新千歳空港で札幌発福岡行きJAL3512便ボーイング737-800が、激しい降雪のため離陸を見合わせ、機体に積もった雪を取り除くため誘導路を移動中、エンジントラブルで出力が上がらず停止した。そして、機長から管制塔に「右エンジンから火が出ている」と通報があった。 異臭と煙が客室に入り込んだため、機長は緊急脱出を決めて乗客159人、乗員6人の計165人が4本の脱出用スライドで機体から誘導路に緊急脱出した。 このトラブル、当初は航空事故が発生するおそれがあるとする「重大インシデント」 とみられていたが、乗客1人が重傷(胸椎圧迫骨折)、2人が軽傷を負っている事が判明、「航空事故」(※1)に見直された。運輸安全委員会がエンジンだけでなく、脱出誘導方法、緊急脱出や客室乗務員の業務や訓練体制についても調査し指摘点があれば公表される。
パニック状態・手荷物を持ち脱出・機体近くでたむろ
当日のテレビ各社のニュースは、乗客が撮影した「緊急脱出」シーンを何種類も繰り返し流した。走行を停止した機内では、CA(キャビンアテンダント:客室乗務員)が背もたれのカバーを外して乗客に配りながら、「ハンカチなどで口をふさいで下さい」、「低い姿勢を取ってください」、「私ども乗務員は訓練を受けています。どうぞご安心ください」などと乗客を落ち着かせていた。
しかし、緊急脱出が始まるや機内は、女性の「怖い怖い」という悲鳴、CAの緊迫した声で満ち、脱出用スライドではリュックサックを担いで両手にショッピング袋を持った人、スーツケースを持った人が多数滑って降機した。 緊急脱出が行われた機内は、半狂乱の女性の声で分るように(1)パニック状態、(2)荷物を持ったままの脱出用スライド使用、(3)機外に脱出した乗客が機体のそばにたむろするなど、重大航空事故に結びつく危険な兆候が見受けられた。 (1)のパニックになりかかった乗客の模様は、事故時の心理状態が極度に興奮状態になると、自ら混乱を助長して事故を大きくし、自分はおろか周囲を巻き込んで危機的状況をつくりだす極めて危険な前兆だった。 (2)の荷物を持っての避難については、荷物で脱出用スライドを傷つければエアーが抜けて使えなくなり、乗客は高所(B737で2.5メートル)の機体に取り残される。 エールフランス358便 Airbus A340機のオーバラン炎上事故(カナダ・トロント・ピアソン国際空港、2005年8月2日)では、乗員乗客309人が全員脱出に成功した。43人が負傷したが死者は出なかった。 「トロントの奇跡」といわれているが、脱出した多くの乗客が手荷物を持って脱出したことについて、事故調査報告書は安全に対する著しいリスクであるとし、「手荷物を持っての脱出は、迅速かつ整然とした脱出の妨げとなり、脱出用スライドの破損を引き起こし、けがの可能性増大につながる」として、乗客へのSafety Briefing(安全説明)をするよう求めている。