D&Iで成功する中小企業も。乙武洋匡と語る「新たなビジネスの源泉」
近年、D&Iというキーワードを目にすることが増えました。「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包摂)」が企業の経営やビジネスにおいて不可欠な要素として注目されています。女性活躍やLGBTQといった性別、障がい、年齢といった観点でのD&Iはもちろん、日本ではまだあまり意識されることは少ないかもしれませんが、国籍や宗教なども世界的には重視されています。また、一人ひとりの価値観や働き方など属性だけでなく、考え方やライフスタイルなどの多様性も今後より重要となるでしょう。 ただ、率直に言ってこれまでD&Iは、人権への配慮や企業の社会的責務の観点から取り組まれてきたことが多いのではないでしょうか。 しかし、売上を伸ばし事業開発をしていくうえで戦略的にD&Iを位置づけ、多様性をイノベーション創出の源泉にしていく視点が重要ではないかと思います。 グローバル化や大きな社会変革が進む中で、多様な視点を取り入れることで、組織がより柔軟かつ創造的に変化し、成長することが期待されています。しかしながら、具体的にダイバーシティがどのようにビジネスに貢献し、イノベーションを促進するのかについては、まだ多くの企業で理解が十分ではない部分もあります。 今回は、ダイバーシティの象徴でありベストセラー作家である乙武洋匡さんと、中小企業を中心に3000社以上の経営支援を手掛け1000件を超える新商品・新規事業を生み出してきたオカビズの前センター長としてイノベーションに取り組んできた私・秋元祥治が、ダイバーシティの意義とそのビジネス的な価値について議論しました。 ◾️ダイバーシティがビジネスに与える影響 自身も先天性四肢欠損という障がいを持つ当事者である乙武さん。1998年に出版した著作『五体不満足』は、累計600万部を超える大ベストセラーとなりました。それを契機に様々な、生きづらさを抱える人々に出会い対話を重ねてきたといいます。 一人ひとりが自分らしく生活をし、そして我慢を強いることなく等しく選択肢がある社会であるべきだと強調します。ただそれのみならず、ダイバーシティが企業や社会にとっても、新たな価値を生み出していくうえで重要だと訴えます。「ダイバーシティは、ただ様々なバックグラウンドを持つ人々がいるという事実を受け入れるだけでなく、その多様な視点を活用して新しい価値を創造することが求められるし、価値創造の原動力にすることができるのです」 例えば、といって多様な視点がイノベーションを生む事例として乙武さんが具体的にあげたのは、「ウォシュレットの開発」事例のエピソード。ウォシュレットは元々、病院で術後まもない患者や妊婦が自分でお尻を拭くことが難しく、その困りごとを解決しようと技術者によって開発されたものだというのです。健常者には気づかない視点も、異なる人から見れば、そこにニーズやビジネスチャンスがあるということ。その後、ウオッシュレットは一般市場にも広く受け入れられ、今や世界的なヒット商品となっています。この事例は、多様なニーズや視点が新たな製品やサービスを生み出し、それが大きなビジネスチャンスに繋がることを示しています。