IMFによる2024年10月のGFSR-日本にとっての意味合い
緩和的な金融環境の維持
今回のGFSRは、第1章の様々な部分で、米欧の中央銀行による既往の大幅かつ急速な利上げに関わらず、金融市場の様々な領域で緩和的環境が維持され、8月初の国際金融市場の不安定化後も状況は大きく変わらないと指摘した。 例えば、米国の株式市場については、良好な収益見通しを勘案しても株価の過大評価が生じた可能性を指摘したほか、株価の調整があっても、投資家が「growth」から「value」へ投資対象をローテーションすることで、株価上昇が広がりを持ったと指摘した。 また、米欧の社債市場ではクレジットスプレッドが極めてタイトになっているほか、国際金融市場におけるシンジケートローンの供与額やCLOの発行額が高水準に達している点も指摘した。先進国での緩和的な金融環境は、途上国にもメリットを及ぼしているとすれば、IMFとしては歓迎すべき事態である。 今回、緩和的な金融環境が維持された最大の要因は、IMFが世界経済見通し(WEO)で議論したように、コロナ後の労働供給の回復で所得が維持されたほか、コロナ禍での財政支出で企業や家計のバランスシートが良好に維持された点にある。 ただし、今回のGFSRも楽観的ではない。例えば、米欧でのFCIの緩和方向への動きは、各中央銀行が利下げに転じた効果より、資産価格のバリュエーションの上昇に支えられており、今後の政治的ないし地政学的リスクに影響される可能性を指摘した。 また、米欧だけでなく日本でも企業倒産が増加し、Distance to insolvencyのような指標も上昇しているとし、既往の債務の借換えリスクは大きいと指摘した。この点は、PEファンドのように短期債務に依存する貸し手にも同様に該当しうる。 今回のGFSRは、こうしたリスクを予防する上で、中央銀行や政府が政策の運営方針を明確に示すことで、金融市場に過度なポジションが形成されないようにすることの重要性を主張した。 この点はWEOによる議論と共通しており、政治的ないし地政学的リスクが高い下で難しい課題だが、escape clauseの活用や金融政策と金融システム安定策の適切な区別も含めて、日本にとっても大事な課題となりうる。