IMFによる2024年10月のGFSR-日本にとっての意味合い
投資家の流動性ミスマッチ
今回のGFSRは、第1章の後半で、米国の債券ファンドがリーマンショック以降に顕著な成長を見せた中で、ETFや機関投資家向けのミューチュアルファンドが、伝統的な個人投資家向けのミューチュアルファンドをプレゼンス面で圧倒するようになった点を指摘した。 2020年3月にも顕在化したように、こうしたファンドは社債市場が不安定化した場合、機関投資家から急速かつ大規模な償還請求に直面するため、保有資産のfire saleを通じて社債市場の不安定性を一層悪化させる恐れがある。しかも、今回のGFSRは、利回り獲得のためにレポを常用するファンドに対しては、投資家の不安心理が強まりやすい点も指摘した。 また、今回のGSFRは、主要国の一部が年金基金による流動性の低い資産への投資を促進する政策を推進すると同時に、確定拠出型(DC)の年金で加入者による運用指図の変更を短期で実現するよう要請している点も取り上げ、年金基金による流動性のミスマッチにつながりうるとの見方を示した。 このうち債券ファンドの課題は、現時点の日本には殆ど該当しないとしても、本コラムの第1節でみたように、将来の国債保有構造を考える上では参照すべき論点となりうる。 加えて、個人投資家も債券ファンドを通じて一定の規模で国債を保有することは-長い目で見た国債保有の安定の点で望ましいとしても-債券ファンドが投資家のニーズに即して換金性を高めるといった対応を講ずる場合、債券ファンドにおける流動性のミスマッチにどう対応するかという課題も生ずることになる。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也