世の中のためなら溶接にこだわらない ベトナムでうどん店を開業する製造業
精和工業所(兵庫県伊丹市)3代目の原克彦さんは、「すべての商売はサービス業」という先代である伯父の言葉をきっかけに事業を継ぐことを決意。「ざっくり」とした事業の進め方を改善し、受注の波にも対応できるようデジタル化で作業を効率化させます。さらに、溶接を軸としながらも「世の中のためになるサービスを色々と手がけていきたい」と自社開発製品の一つである出汁サーバーの普及に向けてベトナムでうどん店を開業するなど社員とともに挑戦を続けています。 「技は見て盗め」ではない人材育成のコツ 中小企業の事例集【写真特集】
薄板ステンレスの溶接で存在感を発揮
精和工業所は原さんの祖父の山下清至さんが、業務用厨房機器やショーケースなどのステンレス製品の加工を手がける会社として、1962年に創業しました。その後はいわゆる給湯器、小型電気温水器関連のステンレス製品の加工や溶接も手がけるようになります。 中でも高い技術力が必要とされる薄さ1㎜以下の薄板溶接を手がけることで、存在感を発揮。現在はエコキュートなど住宅設備機器をメインに、環境試験装置、燃料電池関連の筐体なども扱い、従業員約250人、売上高50億円規模にまで成長しています。
「ざっくり」「連携不足」課題が山積
原さんは会計系大手コンサルティング会社でのキャリアを経て、2004年に家業に入ります。前職時代のクライアントには大手メーカーが多かったこともあり、すぐに家業の課題に気づきます。 トップダウンで多くの物事が進んでいく。部門間同士の連携が足りない。部門長は自部門の進捗や業績ばかりで、会社全体の目標達成や利益を考えていないなど、組織として醸成されていない点です。 「いわゆる管理会計のスキームや意識が経営者だけにしかない、と感じました。経営者目線のメンバーが少ない、とも言えるでしょう。完全分業制のようにも見えました」 会社全体としての明確な数値目標や、中期経営計画といった指標もありませんでした。原さんの言葉を借りれば「曖昧」「ざっくり」で、事業はまわっていました。 予算、という概念もありませんでした。そのため必要なものが生じたら、上長や社長に打診。投資効果などを示さずとも、受ける側も感覚的に良し悪しを判断していました。各種稟議なども同様。ただ創業来黒字、無借金経営であったことから、そのままの状態が続いていました。