石巻の新しい生態系。もやもや女子が描く「おもしろい町」
「自分のやりたいことや目標、自分なりの答えを最初から明確にもっていたのだろうな」 被災地に入って支援活動に携わる人たちを、私はそんなふうに思っていた。 私にはそのような活動をした経験はない。傍から見ていて、勝手にそう思い込んでいたのだった。
宮城県石巻市を訪れた時も、その先入観は変わらなかった。活動している人たちが、確信を持って行動している、迷いの少ない人のように見えた。なんとなく人生を過ごしてきた自分とは考えも行動も全く違うのだろうな、と。 取材に入ると、その先入観はがらがらと壊れた。そこにいたのは私と同じ普通の人たち。迷い悩みながらも一つ一つ目の前のことに取り組んでいき、その結果、自分の目指したいことをつかんだ人たちだった。 その中の一人、埼玉県上尾市出身の渡邊享子さん(28)にフォーカスする。
色んな人を巻き込むから巻組
「自分自身に『これ』っていうものがなかったから、今も町の中に居場所をいただいてお世話になり続けている」と渡邊さんはいう。東京工業大学大学院2年、就職活動で悶々としていた時に東日本大震災が発生。2011年5月、復興支援活動のために初めて石巻に来た。あれから5年、石巻で地元の人と結婚し、2014年に合同会社巻組を立ち上げた。 石巻市中心部の商店街にある建物の2階、大きな窓からやさしい日差しが差し込む事務所に渡邊さんはいた。大きな目は終始楽しげに笑い、はきはきと、時には考えながら話す姿を見ていると、こちらまでワクワクしてくる。 巻組という名前の由来は色々とある。その一つが、色々な人と組んだり、巻き込んでいったりしてプロジェクトを生み出したいという思い。デザインや建築の力をつかって形にし、新しい価値を生み出していく。Webサイトには「石巻内外の人、企業、団体とチームを組み、様々な人を巻き込んで、世界を驚かすものを作りたい」とある。
玉虫色の巻組にそれぞれの色が足されていく
現在行っているのは移住者向けの住宅支援だ。被災地には他地域からきた人が住める賃貸住宅が少ない。人を受け入れるために、たとえば空き家を改修し、複数の人が暮らせるシェアハウスにする。受け入れ基盤となる「住む場所」をつくることで、新しいことを始める人に育ってもらおうという構想だ。起業支援や広報、情報発信の面でも支えていく。 「新しい事業や付加価値を町に提供してもらうことを、どうお手伝いできるかが私たちの起業支援」と渡邊さんはいう。「必ずしも起業はしなくてもいいけれど、不幸な形で去って欲しくない。ポジティブに新天地に向かえるように、この町にいてよかったなと思う時間を過ごしてもらうことが大事だと思っています」 巻組の社員は3人。それぞれが人材育成、起業支援、建築・不動産の部門を担当する。渡邊さんは事業の全般を見つつ、主に不動産を通した人材育成を担当している。「1プロジェクト3人で、3年続けられることが自分の中のマイルストーンです」。3人というのは師匠と仰いでいる人からの助言。一人では病気になったり、続けられなくなったりすると全てが終わる。2人ではケンカするかもしれない。3人いれば、2人の仲が悪くなっても、一人欠けても補い合える。3人のうち一人は石巻出身、この4月に入社した。 「私自身にあんまりこれやりたいっていうのがないから、自分なりの色を巻組という存在に見出せるんじゃないかな。玉虫色のところがあるのかも」と渡邊さんは笑う。巻組の事務所には社員ではない、フリーで働く人も机を構えている。一緒にできる仕事があれば声をかける。「同じ会社でなくても、話し合えるようなネットワークをつくっていって、その中でチームを組んで一緒に仕事をしたいと考えています」。