東大、京大の「出題意図」から見えてきた真実「じつは、大学は”知識”は問うていない」…「中学数学の大学入試問題」をわざわざ出題するわけ
知識を問うてはいない
これら2大学のように、各大学は、それぞれの意図をもって入試問題を作問・出題しています。 ここであらためて、先ほどの問いについて考えてみましょう。高校数学の知識を必要としない「中学数学の大学入試問題」をわざわざ出題する理由はなんでしょうか? その答えの前に、もう1問、追加の質問です。京都大学の全体的な出題意図の中で、「知識」という単語(またはそれに類する単語)は、何回用いられていたでしょうか? 一度も用いられていません(数学に関する多様な基礎学力の中に、知識が暗に含まれているとは思いますが)。つまり、知識“以外”の部分を問うために、すべての高校生が習得している(であろう)中学数学の問題を出題することで、東京大学の出題意図にあった「思考力」と「表現力」を中心に計ろうとしているわけです。 このたび上梓した『中学数学で解く大学入試問題』では、具体的な大学入試問題を通して、その問題を解く過程で求められる力を詳しく見ていくような構成を取りました。その際、「大学入試問題を解く過程で求められる力」として、次の6つに分けて考察しています。 まず、東京大学の出題意図の2文目にあった、 1「基本的な数学の知識」 2「基本的な数学の技法」 さらに、同意図中の「1)数学的に思考する力」、「2)数学的に表現する力」からなる『数学的思考力』を、京都大学の出題意図の1文目のように分解して、 3「論理性」 4「計算力」 5「数学的な直感」 6「数学的な表現」 とし、それぞれに一節ずつを割り当てて確認しています。 また、その仕上げとして「数学に関する多様な基礎学力」からなる「総合力(総合的な数学力)」を求める問題で演習する章も設けました。 もちろん、あるレベル以上の難易度になれば、どのような問題でも「総合力」が要求されます。そこで『中学数学で解く大学入試問題』では、各節で取り上げる内容が特に必要となり、かつその理解に適した問題を取り上げ、問題を解く過程でそれぞれを説明します。 そのとき、単に解くだけではなく、なぜこの問題が選ばれているのか、なぜこの順序で配列されているのか、各節で取り上げた6つの数学力とはどのようなものか、について考えながら読んでいただければ、数学力のさらなる向上につながるはずです。 さて、「基本=各分野の“基”となり、“本”質となるもの」です。そこで、先の記事〈あの「東大の入試問題」は、日本社会に叩きつけた「問題提起」だったのかもしれない…良問にひそむ「数学教育界を揺るがす」衝撃のメッセージ〉で取り上げた円周率の問題を例に、大学側が求める「基本的な数学の知識」とはどういうものか、を考えてみましょう。 * * * 次回は、大学入試で問われる「数学の基本的知識となにか」についての記事をお届けします。 中学数学で解く大学入試問題 数学的思考力が驚くほど身につく画期的学習法 有名大学の問題が「解ける喜び」「考える楽しさ」を体感しよう! 中学数学の知識・技術で大学入試問題にトライして、数学の真髄に触れる。
杉山 博宣(岐阜県立高等学校教諭)
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