忘れるべきでない「ふたつの戦争以外の戦争」。世界で起きている争いは《ロシア・ウクライナ戦争》《イスラエル・ハマス戦争》だけじゃない――。
しかし、今、ミャンマーで起きているように、民主化を求める一般市民が、ひとたび武装して銃を持った瞬間から、彼らは国際法の保護対象を外れて『戦場で殺してもいい人たち』になってしまう。 もちろん、私も軍事政権の弾圧に屈せず、命を懸けて戦う彼らの気持ちを否定するわけではありませんが、単純に『武器を手に取って大義のために戦う市民たち』をたたえている人たちにも一種の危うさを感じます。 毎日のように目にする、ウクライナやガザのニュースによって、今、世界中で戦争への危機感や恐怖感が膨らみ続けていて、それと同時に『侵略者とは市民も断固、戦うべし!』といった雰囲気が広まり始めている。 日本でも台湾有事や中国の脅威をあおる報道が連日のように繰り返され、社会全体の不安や恐怖心が高まる中で、人々がどんどん好戦的になっているように見えるのです」 ■ふたつの戦争の影響で好戦化していく国々 伊勢﨑氏が指摘する「世界の好戦化」に関して、ひとつ、気になるニュースがある。 それは、7月4日に議会の総選挙を控えたイギリス保守党のスナク首相が「徴兵制度の復活」を選挙公約のひとつに挙げたことだ。 イギリスだけではない。徴兵制の復活はフランスやドイツでも議論されていて、ロシアのウクライナ侵攻以降、ヨーロッパの先進国が続々と「リアルな戦争」への備えに傾いていることを象徴する動きだといえるだろう。 日本でも6月3日に熊本市内で開かれた「九州地方知事会議」の席上で、政府の担当者が九州7県に山口県を加えた8県の知事に対して「台湾有事を念頭に、沖縄県の宮古島市など、先島諸島の住民、約12万人(滞在中の旅行者、約1万人を含む)に関する避難と受け入れの初期計画の策定開始」を要請。 これも、政府が台湾有事の際、近年、自衛隊の配備が進む沖縄の先島諸島が中国との戦場となる現実的な可能性を想定した動きで、「リアルな戦争」への備えを着々と進めていることを意味している。 「『実際に安全保障上の脅威が高まっている以上、自国の防衛力を高めるのは当然。むしろ、現実的な戦争のリスクを想定して、それに備えないほうが無責任だ!』と、考える人も多いかもしれません。 しかし、そうして人々が戦争に備えるほど、逆に世界の緊張は高まり、戦争が起きるリスクも高まる......というのが、僕がこれまで見てきた戦争の現実です。