忘れるべきでない「ふたつの戦争以外の戦争」。世界で起きている争いは《ロシア・ウクライナ戦争》《イスラエル・ハマス戦争》だけじゃない――。
この市場に進出し、近年、急激に勢力を拡大したのがロシア政府と強い結びつきを持つワグネルで、彼らはアメリカの民間軍事会社ほどコンプライアンスを気にする必要もないし、現金ではなく、鉱物などの天然資源やその採掘権の見返りでも軍事支援を提供。経済制裁に直面しているロシアにとって必要な天然資源が確保できるというワケです。 そして、アフリカ部隊は西アフリカ諸国などの政情不安を利用し、人々の不満や怒りをフランスやベルギーなど、植民地時代の旧宗主国である西ヨーロッパ諸国への反感に誘導することで、この地域におけるロシアの影響力をさらに高めようとしています」 ■一般市民が武器を取ることの危うさ 次にアジア。まず中東では激戦が続くガザだけでなく、長年、内戦に苦しんできたシリアやアフガニスタンでも、いまだに政情不安が続いてるし、トルコとクルド人武装勢力の紛争も継続中。 南アジアでは、3度の戦争を経た今も、カシミール地方の領有権を巡り、インドとパキスタンというふたつの核保有国の激しい対立が続いており、時々散発的な武力衝突も起きている。 一方、日本も含めた、東アジアに目を向けると、冒頭でも触れた朝鮮半島や、緊張が高まる台湾問題など、大きな火種が存在するが、現在進行形の戦争という意味では、やはりミャンマー内戦が深刻だ。 「ミャンマーでは2011年の民主化以降も、国軍と各地の少数民族の武装勢力との衝突が続いていましたが、その国軍が21年にクーデターで政権を掌握し、民主化勢力を激しく弾圧。 最近はこれに強く反発する民主化勢力の一部が武装化し、以前から国軍と戦ってきた少数民族の武装勢力と結びついて組織化され、各地で国軍への反攻を強めているともいわれています」 圧倒的な力を持つ軍事政権の弾圧に屈せず、一般市民が武器を取り、自由や民主主義を取り戻すため、少数民族と共に国軍に立ち向かう......。何やら「いい話」のようにも思えるが、伊勢﨑氏は「とても手放しでは喜べない、実に複雑な心境」だという。 「冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、国際法上の『戦争』とは『合法的な殺し合い』です。ただし、それには厳格な条件があって、戦争で殺してもいいのは『戦闘員』だけで、非戦闘員である一般市民を殺したり傷つけたりする行為は国際法違反の『戦争犯罪』と見なされる。 ガザで続く、イスラエル軍による一般市民の大量殺戮が『重大な国際法違反』『深刻な戦争犯罪』と批判されているのもそのためです。