地域が整備すべき「アドバンスケアプランニング」とはなにか【正解のリハビリ、最善の介護】
【正解のリハビリ、最善の介護】#61 人は、もしもの時まで、もしものことは考えません。ある自治体の在宅医療連携会議に出席した際、愕然としました。課長さんが「アドバンスケアプランニングのために、救急体制と看取り体制を整えるのが、私たちの自治体の課題です」と言うと、担当委員の医師もそれに強く同意したのです。それでは昭和時代の医療ではないでしょうか。 「死ねない時代」における医療との向き合い方 3つの心構え 地域では、まだそういう認識でアドバンスケアプランニング政策を考えていたのです。つまり、患者さんが現状から回復して、より良く人生を生きる体制を整えるのではなく、最後の救急体制と看取り体制だけを整えれば、より良い暮らしになると考えているのです。 いまは、地域に暮らす方がもしもの時に、救急体制と看取り体制だけでなく、「地域で回復する体制」を考える時代ではないでしょうか。地域で暮らす高齢者にはとても大切な問題なので、今回は「アドバンスケアプランニング」についてお話しします。 アドバンスケアプランニングは、Advance(あらかじめ)Care(医療・介護・世話)Planning(計画する)の頭文字を取って「ACP」と呼んでいます。もしもの時のために、医療や介護について前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みのことをいいます。日本では平成30(2018)年に厚生労働省がACPの愛称を「人生会議」としました。最善の介護には、地域のACP政策が強く影響するのです。 世界的なACPの基本は、第1に「年齢や病期を問わず、成人患者さんが自身の価値観、生活の目標、今後の治療に対する意向を理解し共有することを支援するプロセス」です。そうです、患者さんの意向を支援するプロセスなのです。 第2に「その目的は、重篤な病気や慢性疾患の中で、人々が自身の価値観、目標、意向に沿った治療を受けられるように支援すること」です。ここがポイントです。地域には「さらに回復したい」と考える方がたくさんいるはずです。しかし、地域で整備するポイントは救急体制と看取り体制でよいと考えている行政と医師が多い現状があります。そうではなく、患者さんの価値観、目標、意向に沿った治療を受けられるように支援することが重要なのです。つまり、救急医療だけでなく、今より回復したいと考える患者さんを支援する体制が地域にも必要なのです。 しかし、この視点は救急治療を行う多忙な医師の盲点になります。そこで行政が頑張って、考える必要があるのです。 今年、福岡で開催される日本集中治療医学会学術集会では、その点に危機感を持ち、そこで、急性期集中治療後の回復とより良い人生を送るための英知集結の講演依頼があり、専門医共通講習(地域医療)でお話しする予定です。 ■回復期治療を受ける時には新しい人生を考える 第3は、「このプロセスを本人が自分で意思決定ができなくなった場合に意思決定をしてくれる信頼できる人等を選んでおくこと」です。私も60歳を越えて、たくさんの経験と英知は集結できましたが、身体的、知能的な衰えを感じるようになり、もしもの時の意思決定を妻や家族に任せる準備中です。一方で、そうならないように「筋肉革命95」を進めており、95歳で非介護、103歳まで現役医師を続けたいとトレーニングしています。 人は、もしもの時まで、もしものことは考えません。そして、もしもの時に初めて、どうしたらいいかを悩み始めます。ですから、地域のACP政策では、患者さんの希望する価値観、生活の目標、今後の治療に対する意向を支援する体制を準備して欲しいのです。これが救急体制と看取り体制だけでいいと思われたら、困ります。みなさんもぜひ自分が暮らしている自治体のACP政策に興味を持って、調べてみてください。 最後に、ACPを考えるタイミングはいつがいいのでしょうか。それは自分の健康を考え始めた時が第1段階です。第2段階は大きな病気を治療した時です。特に、回復期リハビリテーション病院で回復期治療を受ける時は、今後の新しい人生の再出発を考える必要があります。余命宣告をされた時がACPを考えるタイミングではありません。備えあれば憂いなしです。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)