パナソニック車載電池“脱テスラ依存”の胸算用、SUBARUとマツダ向けに供給「世界二極体制」でどうなる
こうしたテスラ依存リスクの顕在化を踏まえ、パナソニックには電池の供給先を多様化したいという思惑があった。特に余剰となった国内の生産能力を有効活用できる供給先探しが喫緊の課題だった。 一方、自動車メーカーとしても、EV向け電池の調達は大きな課題だった。自社開発の余力があるトヨタや、蓄電池大手のGSユアサを抱え込んだホンダと異なり、SUBARUやマツダには車載電池を自ら開発する余裕がなかったからだ。
経済安全保障や自動車産業保護の観点から電池事業への支援を強化している政府の思惑とも一致した。SUBARUとの新工場建設では、最大1564億円、マツダ向けの供給では最大283億円の補助金を受ける。 9日の式典で挨拶した経産省の野原輸・商務情報政策局長は「バッテリーを日本の基幹産業にしていくというビジョンを持って、官民で取り組みを進めたい」と、今後も政府として支援を続ける考えを明らかにした。 ■二兎を追い続けられるか
テスラ向けの新型電池発表、国内向けの新工場建設と矢継ぎ早に施策を繰り出すパナソニック。はたしてアメリカと日本の同時攻略は可能なのか。 中でも難しいとされるのが優先順位の問題だ。例えば最新の4680電池をめぐっては「テスラ以外の相手にも供給するとなれば、『なぜこちらを優先しないのか』と怒らせてしまう恐れがある」(電池業界関係者)。 しかし、SUBARUやマツダをないがしろにするわけにもいかない。只信社長はこの点について、両社にも「今後(4680電池を)供給する可能性はある」と含みを持たせつつ「当初は2170からスタートする」と語った。
複数の自動車メーカーへ供給し続ける限り、最新技術をどの順番で提供するかという問題はつきまとう。メーカーとの信頼関係にもつながる話題だけに、慎重な舵取りが必要だ。 EV業界全体の減速が指摘される中、アメリカ経済の減速や大統領選の行方など、不安要素も多い。社運をかけて進める車載電池事業の行方は、しばらく予断を許さない状況が続きそうだ。
梅垣 勇人 :東洋経済 記者