シニアの睡眠は「遅寝」「遅起き」「だらしなく」。「眠れない」のではなく、実は「寝すぎ」かも? 薬は最後の選択肢に、ストレスは禁物
◆快眠の心得3カ条 私が65歳以上のみなさんにおすすめしている習慣は、「遅寝」「遅起き」「だらしなく」の3つです。「早起きは三文の徳」と言われますから、意外に思われる人も多いでしょう。 再びホルモンの話に戻りますが、眠りを誘うホルモンのメラトニンが最も多く分泌されるのは0~6時です。つまり、この時間帯が最も眠りやすいということ。さらに、メラトニンが多く分泌される時間帯に寝ていると、成長ホルモンも分泌されやすくなるのです。 成長ホルモンには新しい細胞を生み出す役割があり、健康寿命を延ばすうえでとても重要。特に寝始めの3時間で大量に分泌されますので、寝つきがいいに越したことはありません。 逆に、「いかにうまく起きられるか」を司る「コルチゾール」というホルモンは、体温を上げる働きによって目覚めを促すのですが、深夜3時頃から出始めて、5時半~8時半頃にピークを迎えます。ですので、朝4時や5時に起きてしまうとこのリズムにそぐわない。早起きより「遅起き」を心がけ、0時頃に床に入って6時間半~7時間ほど眠る、というのが理想の睡眠習慣でしょう。 コルチゾールは別名「ストレスホルモン」とも呼ばれていて、ストレスを感じる時に多く分泌されます。大切な予定がある前の晩、「寝坊したら困る!」と考え過ぎて、逆によく眠れないことがありませんか? これは、「ちゃんと起きないと」というストレスによって、コルチゾールが過剰に分泌されている証拠。「はやく寝ないと」という焦りもまたストレスとなって、むしろ覚醒を促す可能性があります。寝る時は、気負わずだらしなく、リラックスした状態を心がけてください。
◆「起きている努力」を シニアの場合、朝早くに目が覚めると昼過ぎには疲れて眠くなり、長いお昼寝やうたた寝をしがちです。また、早めの時間に夕食を食べた後、特にすることがないから布団に入る、という人も多いのではないでしょうか? そうするとまた翌朝早く目が覚めてしまい、「遅寝」「遅起き」の習慣がいつまでも身につきません。 よく、「日本人は睡眠不足」などと言われますが、シニアにとって深刻なのはむしろ「寝過ぎ」なことだと私は思います。 7時間の睡眠が確保できていれば健康に問題はなく、逆にだらだら寝ないことを意識すべき。残りの17時間はしっかり活動してください。人は「眠る努力」はできませんが、日中「起きている努力」ならできる。家にいる時間が長くて、いつでも眠れる環境にいる方は、日中はウォーキングなどの軽い運動を行って体を動かしたり、読書や趣味に取り組んだりして頭を働かせましょう。 ただし、仮眠やうたた寝が一切禁止というわけではありません。午後3時までに15分程度の仮眠なら夜の睡眠に影響がないので、時間を計ってメリハリのあるお昼寝を心がけてください。 この生活習慣を守ることで、もう一つ、シニアのお悩みを解決することができます。それは、夜中にトイレに行きたくなって目が覚めてしまう、というもの。これが嫌で睡眠薬を飲む人もいるようですが、いくら薬を飲んでも、尿意を抑えることはできません。 年齢を重ねると、「ADH」という抗利尿ホルモンが減少します。つまり、我慢できずすぐ尿意を感じるということ。ですから、夜中にトイレに起きてしまうのは当たり前です。膀胱というタンクがいっぱいになってしまったら、出すしかありません。 これまでにお話しした生活習慣を守っていれば、それまでに深い睡眠がとれているはず。夜中に起きてトイレに行ったとしても、またすぐに眠れる状態になっているのです。 「トイレに起きてしまうかも」というストレスは、コルチゾールを活性化させてしまいます。また、睡眠に限らず、若い頃と同じ、というわけにはいかなくなってくるもの。変化を受け入れ、今できることに取り組むことが、結果的に快眠をもたらすのです。 「とにかくストレスを減らす」という観点で、睡眠環境も見直してみましょう。ベッドや枕、パジャマなどの寝具、寝室の温度や湿度、明るさ、部屋の香りなど、自分が最もリラックスできるものに変える。睡眠薬にお金を使うより、よっぽど有意義だと思います。 (構成=吉川明子)
遠藤拓郎