シニアの睡眠は「遅寝」「遅起き」「だらしなく」。「眠れない」のではなく、実は「寝すぎ」かも? 薬は最後の選択肢に、ストレスは禁物
睡眠は脳と体を修復する大事な時間。だからと言って、たくさん寝ればいいというわけではありません。効果的に快眠できる方法をお伝えします(構成=吉川明子 イラスト=こやまもえ) 【グラフ】安易な睡眠薬服薬で「寝すぎて」いませんか? * * * * * * * ◆加齢で睡眠力は衰える 年齢を重ねると、「寝つけない」「眠りが浅くて、しっかり眠った実感が得られない」といった睡眠の悩みを抱える人は多くいらっしゃいます。 なぜ若い頃のように眠れなくなってしまうのか。それは、加齢とともにさまざまなホルモンが減少してしまうからです。特に女性の場合は閉経の影響も大きく受けます。 排卵後から生理が始まるまでの期間に分泌される女性ホルモンに含まれる「プロゲステロン」は、強い眠気をもたらす作用があるのですが、閉経後に女性ホルモンが分泌されなくなると、その恩恵が受けられなくなり、眠れなくなる女性が増えるのです。 また、男女問わず睡眠に影響するのが、「メラトニン」。これが加齢により減少すると、うまく寝つけなくなります。したがって、どんな人でも年とともに睡眠力は衰えるもの。75歳を過ぎると、人がぐっすり眠れる時間は、平均で6時間半ほどと覚えておきましょう。 とはいえ、眠れず悩んでいるという患者さんがいるのも事実。そんな方に私は、独自に開発した「行動計」を装着してもらっています。これは人がいつ、どのくらい寝ているか、起きて活動しているかを精緻に計測するもの。 それを見てみると、実は6時間半以上の睡眠時間は確保できていたり、「夜眠れない」と言いつつお昼寝をしていたり、といったことが多いのです。 ではどうして「寝られていない」と感じるのか。それは、深くて質のよい睡眠がとれていないから。そこで、シニア世代が快眠を取りもどす方法をお伝えしましょう。
◆薬に頼ってもOK? なかなか眠れない人には手っ取り早く睡眠薬を使う場合もあると思います。私自身は滅多に処方しませんが、薬に頼っても問題はありません。 ただし、睡眠薬の処方率と睡眠の状態を見てみると、ある仮説が浮かんできます。睡眠薬の処方率は55歳から59歳で男性3.6%、女性5.2%。これが、65歳以上になると男性7.6%、女性10.2%とほぼ倍増します。 対して、「7時間以上寝ている人の割合」というデータを見ると、50代で男性18.3%、女性14.4%。70代以上は、男性47.6%、女性39.2%と、こちらも2倍以上に増えているのです。 これらを考え合わせると、必要以上に長時間寝ようとして睡眠薬に頼っている、という結論が見えてくるといえます。 病院に行って、「最近眠れない」と主治医に伝えると、睡眠薬を処方してもらえるでしょう。しかも保険適用で、安価で入手できます。 でもよく考えてみてください。みなさんが糖尿病や高血圧の薬を飲む時、血糖値や血圧を測らずに薬が処方されることなどないでしょう。血糖値や血圧を測定して、高いと医師が判断したうえで、薬を飲みはじめますよね。 しかし、睡眠はなぜか、患者さんによる「睡眠時間が短い」という自己申告や、「寝つけない」といった感覚的なものによって処方されているのが現状なのです。 明確な不眠症でもない限り、私は睡眠薬を使う前にできることがあると考えています。まずは生活習慣を改善したうえで、それでも寝られない時に睡眠薬の助けを借りるのがあるべき順序だと思うのです。