日本人の“鉄道信仰”は、地域を活性化できるのか
地域の鉄道が生き残る策
しかし、現実には乗客がいないと、鉄道は維持できない。そのためにさまざまな取り組みがなされている。鳥取県の若桜鉄道(山田和昭社長)では、昨年4月にSL実証実験を行い、実際には乗客を乗せず、撮影スポットの使用料や記念弁当、その他イベントで収益をあげられるかを試した。約13,500人が現地を訪問し、1,800万円の経済波及効果があった。同社の社長は早稲田大学鉄道研究会出身の鉄道ファンであり、ファンの視点からどうすれば集客できるかを考えている。 昨年刊行された那須野育大『日本鉄道業の事業戦略 鉄道経営と地域活性化』(白桃書房)では、鉄道会社の集客策としてしなの鉄道の企画列車(イベント列車)やIGRいわて銀河鉄道の地域医療ラインを取り上げた。著者の那須野氏によると、「しなの鉄道はイベント列車を単発で終わりにせず、過去の成果をフィードバックして企画列車のノウハウをためており、いい循環ができている」と話している。 同書では、地域の鉄道が生き残る策として、「上下分離方式」を提案している。運行は鉄道会社が行い、線路は公的機関や公共企業体が保有する。それによって、安定した鉄道の運行を守る。那須野氏は「公共的に維持する必要がある鉄道には、世界的に上下分離をすすめる潮流がある」と語っている。なお、那須野氏も早稲田大学鉄道研究会出身であり、鉄道を愛する人である。 若桜鉄道でもすでに「上下分離方式」が行われており、ことし4月からは車両も地元自治体の八頭町・若桜町に譲渡する。 地元の足であるだけではなく、地元とこの国のあらゆるところをつなぐネットワークとしての鉄道を守るために、現場では工夫がされている。鉄道なくして、この国はない。だからこそ、鉄道が地域を活性化させなければならず、さまざまな工夫が求められている。 (ライター・小林拓矢)