香港で上り詰めた日本人シェフが語る「ミシュラン3つ星」の真価
わかりやすいおいしさを研ぎ澄ませる
「例えば、今年の夏は、店のメンテナンス&リノベーションのために2カ月ほど休みをとり、1カ月はグローバルアンバサダー(シェフでは世界唯一)になっているRSRVシャンパンの本社に呼ばれ、パリで特別の顧客に料理をふるまうイベントを催しました。 その後はシャンパンの故郷であるランスに移り、メゾン併設のレストランのメニューを監修。フランスで修業ができなかったことをコンプレックスにも思っていましたが、フランスでフランス人に、自分の料理を教え、振る舞える、それこそ星を3つとったからこそできることでしょう。非常に感慨深いものがありましたね」 3つ星を取ると、世界からの注目度がこれまでとは比べられないほどに高くなる。シェフ自身の発言力も発信力も増し、それだけ社会的な責任も大きくなる。日本の料理人に対しての影響も少なからず大きくなるだろう。 今後の夢は、野望というより、堅実なものだ。 「もちろんながら、3つ星を維持していくことが一番です。頂点に立ったものの宿命ではありますが、モチベーションを含め、それを維持していくための努力は並大抵なことではありません。公私ともに経済的な基盤もよりしっかりとさせていかなければなりません。いま48歳、これから体力もクリエーションも落ちていくことはいたしかたありません。でも、自分の料理には未完成な部分もあり、まだまだ伸びしろがあると思っています。今から5~6年、その道を行けるところまで突き詰めたい、というのが一番の願いです」 どこの国の人が食べてもおいしいと思える、わかりやすいおいしさを研ぎ澄ませるということは、ある意味、わかる人だけがわかればいいという尖った料理を研ぎ澄ませることよりも難しいだろう。目指すのは見えない部分に驚くほど手をかけることで生まれる、ナチュラルかつクリアで自然に体に浸透するような滋味。そこにこそ、日本料理で鍛え上げられた技というものが生きてくるのかもしれない。 「ガムシャラにやってきて、気づいたら今があるんですけどね」と笑う。佐藤秀明氏の旅=Ta Vieは続く。
小松宏子