香港で上り詰めた日本人シェフが語る「ミシュラン3つ星」の真価
香港でレストランを経営する醍醐味とは
素材は東京にいるのとまったく遜色ない状態で使用できるという。朝、豊洲を出たものが、午後には香港に到着する。日本の地方よりも早く受け取ることができるというのだから驚く。肉はヨーロッパからも日本からも、また現地でも調達できる。野菜はローカルマーケットのものも多く使用する。 独立するときに、シンガポールやバンコクという同じく国際都市も候補として考えたが、素材の入手を考えると、香港に一日の長がある。レストランとして何より大切な、客、素材、立地を考えて香港内での開店を決意したそうだ。 香港でオーナーシェフ(共同経営)としてレストランを経営する醍醐味を聞くと「なんといっても国際性、つまりダイバーシティですね」と、即答が返ってきた。 「東京であれば、厨房のなかもゲストもほとんどが日本人。皆同じバックグラウンドを持ち、味覚のルーツも基本は同じ。それが香港のキッチンであれば、アラブ人、トルコ人、スペイン人、フランス人…とさまざま。実は、今は厨房に一人も日本人がいないですね。それを、私が目指す、私のクリエーションを実現するためにまとめていく。骨の折れる仕事ですが、やりがいはある。だから、厨房では必ず英語でしゃべるように指導しています。皆がわからない話をしていたら嫌でしょう。 そしてもちろん、お客様の味の好みもそれぞれ。それを、どこの国の人が食べても美味しいと感じてもらえるように造り上げていく。無難な平均値を狙うということでなく、すべての人に最高と感じてもらえるように下処理や味付けの微調整を重ねるということ。楽しみでもあり、挑戦でもありますね」 2023年には、晴れてミシュラン3つ星に昇格。高みに上り詰めたと言える。何が評価されたと思うかを訪ねた。 「一つにはコロナ禍を経て、それまで海外からのゲストを意識しすぎていた面もあったのですが、よりローカルで愛される店でありたいという思いが強くなってきました。レストランの基本はやはり、ネイバーフッドなよさですから。ローカルなリピーターを喜ばせるために新しいクリエーションに新骨を注ぐ。香港では、夜だけ営業が不可という期間が3カ月ずつあったので、その間に試作に励むなどして、料理のレベルを上げることができた。それらが結果として、店の総合力を高め、星を3つに引き上げてくれたのではないかと思います」 3つ星になって具体的に異なる点はあったのだろうかと聞くと、「3つ星にならなければ決して見られない景色が見えてきました」という。