ネットミームが選挙結果を左右する、「笑い」が誤情報・偽情報拡散の「武器」に
インターネット・ミームはソーシャルメディアと密接に絡み合っている。シンプルに視覚に訴えかけてくるミーム抜きのSNSなどありえないと、つい思ってしまうほどに。だが、実はミームそのものはSNSが世の中に登場するより少なくとも数十年、その起源のとらえ方によっては数世紀も前から存在する。 「ミーム(meme)」という用語は、1976年に英国の進化生物学者リチャード・ドーキンスが著書『利己的な遺伝子(The Self Gene)』の中で初めて使用した造語で、文化を模倣・伝達する単位として遺伝子との類推から生み出された概念だ。ドーキンスは、この用語が言語学における「音素」、すなわち音声を構成する最小単位に類似していると示唆した。 ミームは一般的に、SNSでしょっちゅう見かける無害でユーモアのあるリアクションと受け止められている。確かにかつてはそうだった。しかし、今やミームがSNS上で誤情報を効果的に拡散するツールと化すおそれは現実のものとなり、今年11月の米大統領選で投票結果を左右しかねないとの懸念がふくらんでいる。 「ミームを情報伝達手段とみなした場合、そこには題材となった事案そのものについて個人が理解を深めるのに役立つ情報はほとんど含まれていない。政策がらみの複雑なトピックなら、なおさらだ。だが、嘘にまみれた一文であっても、TikTokで人気の楽曲や共有しやすい画像などと一緒にユーモラスで笑える文脈で投稿されれば、急速に拡散する」と、米ブライアント大学のジェリカ・ロウレット(コミュニケーション・言語学)は警鐘を鳴らす。 ミームは、誤情報を著しく拡散しやすいツールであることがすでに証明されている。簡単に作成でき、人工知能(AI)では管理しにくく、たやすく再投稿したり共有したりできるからだ。テレビでよく耳にするキャッチフレーズのように、記憶に残りやすく、再生産されやすい。 そのため、政治的なミームからはすぐに事実が失われるし、意図的に隠される場合も多い。 「政治的なミームには常にある程度の誤った情報が含まれていると言っても過言ではない」と、国際的な企業ニュースリリース配信会社ビジネスワイヤの編集業務担当副社長マイク・ポワリエは説明する。「特定の党を支持するクリエイターは、おもしろい流行に乗って自らの主張を展開するとき、ニュアンスや説明責任を重視しない」 「ミームを見た人が、ミームの中で事実とされている事柄について信頼性の高い情報源を使って深く掘り下げてくれるなら、それが理想的だ。しかし、そのようなSNSユーザーはそもそも対象として想定されていない。ほとんどの政治的ミームは、感情的な反応を引き起こす即効性のあるアイテムとして設計されている」