伊藤比呂美「靴下の中で、足には老いが溜まってるように見えた」
終わったときのあたしの足は、ものすごくほっそりして見えた。外反母趾があるのだが、それでいつも靴選びには苦労しているのだが、そんなのどっか行っちゃいましたという風情だった。無色のベースコートとトップ コートというのを塗ってもらった爪は、つやつやしてぴかぴかしていた。 それからあたしは靴下をはき、靴をはき、車に乗って家に帰ってあれやこれや、足の事は忘れていた。それから犬を連れて、山に歩きに行った。すると靴下の中で足がつるつるするのを感じた。つるつるというか、するするというか。シルキーな膜がかかってるような感じだった。 家族のLINEに絶え間なく送られてくる孫のしーちゃん(8か月)の写真や動画、その、おなかやほっぺやおしり。さわってみたいなあ、どんな感じだろうといつも思っているのだが、もしさわったら、今、あたしが自分の足に感じてるような感じなんじゃないか。
伊藤比呂美