自民党総裁選ではアベノミクスの功罪の評価を
過度な金融緩和、財政出動がもたらした副作用
いたずらに長期化した超金融緩和は、銀行の収益悪化、市場機能の低下、日本銀行自らの財務の悪化リスクなどの副作用を生み、さらに、政府が低金利環境に甘んじて安易に国債発行に頼った財政出動を経常的に行うような財政規律の低下という深刻な問題を引き起こしたと考えられる。 他方、国債発行に頼った財政支出拡大、政府債務の増加は、将来への負担の転嫁に他ならず、その分将来の民間需要拡大、成長への期待を削ぐことで、企業の設備投資、雇用、賃金の抑制をもたらし、それは経済の潜在力を低下させてしまったのではないか。 アベノミクスのうち民間の投資を喚起させる成長戦略の実施、つまり第3の矢は正しい方向の政策であることから、アベノミクスのすべてを否定する必要はないだろうが、過度な金融緩和、財政出動がもたらした問題については、しっかりと総括する必要があるのではないか。
新たな経済政策をしっかりと前に進めるためにアベノミクスの功罪の評価を
総裁選に名乗りを上げている、あるいは出馬が予想される候補者の中で、「アベノミクスの総括をすべき」と明確に主張しているのは、現状では石破氏だけだ。8月7日に発行した著書「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)の中で石破氏は、「『アベノミクス』」とは一体何だったのか、その功罪についてきちんと評価すべき時期が来たのではないでしょうか」と述べている。 また石破氏は、問題は、禁じ手でもあった異次元の金融緩和を「延々と10年続けてしまったこと」であり、その結果、「国家財政と日銀財務が悪化」したとしている。金融緩和については、「アベノミクスの3本の矢であった成長戦略につながる構造改革を大々的に実施して、生産性の向上を図ることこそが、日本経済の病に対する治療法だったのではないでしょうか」としている。 さらに、「日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下などマクロ的な危機にどう対処するか」、「経済財政諮問会議から一歩進んだ組織を常設して、いわゆる経済安全保障に加えてマクロ経済運営について危機に備えた体制を作っておくべきだと思います」と、新たな組織の創設も提言している。 アベノミクスについての評価は、総裁候補者の間、そして自民党内でも様々であろうが、日本経済の再生に向け新政権下で経済政策をしっかりと前に進めるためには、まずは総裁選の場で、アベノミクスの功罪の評価を積極的に議論すべきだ。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英