なぜ高倉監督は”世界一”メンバー鮫島を外し平均年齢24.6歳のヤングなでしこで東京五輪を戦う決断をしたのか
対照的に「114」のキャップ数を誇る左サイドバックとして、10年前の女子ワールドカップ制覇や2012年のロンドン五輪の銀メダル獲得、そして2015年の女子ワールドカップ準優勝に貢献。16日に34歳になったばかりの鮫島を外した決断を、神妙な表情で「簡単ではなかった」と振り返った高倉監督はさらにこう続けた。 「サメは非常に勉強熱心で、サッカーに対する思いや向上心も強く、いまも成長を続けている選手だと思っています。ただ、サッカーが進歩しているなかで選手たちには総合力が求められ、そのなかで私はボールを持ったときにいかに優位にゲームを進められるか、というところに重点を置いてチームを作りたいと考え、この選手たちになりました」 結果的に2011年のワールドカップ、翌年のロンドン五輪を経験した選手は、30歳の熊谷と28歳の岩渕だけになった。2015年のワールドカップ経験者も、30歳のFW菅澤優衣香(浦和)を加えた3人しかいない。 ただ、佐々木則夫前監督のもとで積み重ねられた濃密な経験の数々は、ヨーロッパの第一線で活躍し続ける熊谷、そしてレジェンド澤穂希さんの象徴だった「10番」を、満を持して託された岩渕の背中や振る舞いを介して伝えられていく。 熊谷と岩渕に全幅の信頼を置くからこそ、高倉監督はなでしこが前回リオデジャネイロ五輪出場を逃した直後の2016年4月に就任して以来、貫いてきたポリシーを踏襲した。それは滞っていたチームの世代交代を担ってきた、若手選手たちの招集に他ならない。 中盤を担う長谷川唯(ACミラン)と杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)の24歳コンビ、23歳のDF宮川麻都(日テレ)、22歳の南萌華(浦和)は高倉監督のもとで初優勝を果たした、2014年のFIFA・U-17女子ワールドカップの代表メンバーだった。 宮川と南は2018年のFIFA・U-20女子ワールドカップも北村、ともに21歳のDF宝田沙織(ワシントン・スピリット)とMF遠藤純(日テレ)、バックアップメンバーの23歳のMF林穂之香(AIKフットボール)とともに制した。高倉監督が言う。 「メンバーを絞り込んでいくなかで、アンダーカテゴリーで世界一になった経験を持っている若い選手たちの台頭は、なでしこジャパンの大きな力になりました」 優勝した2大会だけではない。2016年には日本がU-17女子ワールドカップで準優勝し、U-20ワールドカップでは3位に入っている。両大会に出場した選手から東京五輪代表に名を連ねたのは、後者を戦った塩越を含めて12人を数える。 世界を驚かせたなでしこジャパンのワールドカップ戴冠に導かれる形で、その後の日本女子サッカー界に生まれた潮流と言えばいいだろうか。2010年代のアンダーカテゴリーを席巻した実績の数々は、彼女たちがトップカテゴリーであるなでしこジャパンの一員として、世界と戦った経験の少なさを補ってあまりあると高倉監督は力を込めた。 「もちろんA代表の戦いはまったく違う次元で、ましてや東京で戦う五輪でどれだけプレッシャーがかかるのかは想像の範囲を超えます。それでも、育成年代から世界と戦ってきた経験があるという意味では、彼女たちが物怖じするとは思えません」