プレミア会場水没で“ホーム消失”も…英サッカー界の危機、気候変動がもたらす未来予想図【現地発コラム】
持続可能性へクラブの取り組みだけではいけない
幸い、そのための動きが見られるようにもなってきた。フットボールリーグ(2~4部)では、「グリーン・クラブ」こと所属全72クラブによる持続可能性への取り組みが行われるようになった。プレミアリーグは、3年前から国連による「スポーツを通じた気候行動枠組み」の署名団体。所属20クラブは、今季末までに、環境面の持続可能性に関する確固たる方針を打ち出す対応を求められている。機会があれば、特定のクラブや選手に見られるアクションも紹介したいところだ。 ファンも、他人任せではいられない。ホームスタジアムを超えた“ホーム”、地球の未来を考えて行動を起こすべきだ。完璧である必要はない。かく言う筆者も、肉類は生産段階で温室効果ガスの排出量が多いと分かっていても、ビーガン(完全菜食主義者)にはなれそうにない。試合会場で、プラスチックボトル入りの水に手を出したりもする。 それでも、できる範囲で動き始めるに越したことはない。例えば、サッカー観戦にも付き物のごみに関して。この国では、一般レベルでポイ捨てが目立つ。ごみ箱が利用されても、分別には無頓着。「リサイクル可能」と「その他一般」の2種類しかないにもかかわらず、である。 試合会場のごみというと、英国メディアによる日本代表サポーター評を今でも思い出す。2002年日韓大会だったか、続くドイツ大会だったかは忘れてしまったが、日刊紙のW杯ガイドに「日本人のファンはサッカー界のウォンブルズ」とあったのだ。 ウォンブルズとは、その昔にBBCテレビの子供向け番組で人気が広まった架空のキャラクター。顔はモグラ風で、住みかもウィンブルドンの公園に掘った穴の中だが、環境を守るためにごみを集めては発想豊かにリサイクルを試みる。現実世界では、“地元クラブ”のマスコットでもある。 その姿を、再び試合開催が可能になったウィンブルドンのホームで眺めていると、「サッカー界のウォンブルズで結構」と思えた。試合後には、飲んでいた紅茶の紙コップと、足もとに誰かが置いていった紙皿を持って「19.5番」の座席を立ち、コンコースにゴミ箱を求めた。プラウ・レーンを含め、全国複数の“ホーム”が洪水に飲まれてしまう近未来を回避するために、些細だが自分にできることの1つとして。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka