プレミア会場水没で“ホーム消失”も…英サッカー界の危機、気候変動がもたらす未来予想図【現地発コラム】
茶色い水の中に、辛うじてゴールの白いクロスバーが見える状態だったブラントン・パーク。あのスタジアム映像は強烈に覚えている。グラウンドキーパーが、ゴールマウスで泳ぐコイを保護した経験を持つクラブなどカーライルぐらいだろう。
対応策としてのホーム移転議論
水辺から遠い町にスタジタムを移せば良いという、外野の声がないわけではない。しかし、“床上浸水”のリクスが高い「住居」は、資金力が限られる下部リーグ勢が「新居」を構えるために売却する資金源とはなりにくい。資産価値が極めて不安定な不動産であるためだ。 それ以前に、この国のサポーター心理が移転に二の足を踏ませる。ホームスタジアムとは、「ホーム」のニュアンスが「スタジアム」よりも格段に強い建造物なのだ。 プラウ・レーンは、2020年開場の新居ではある。クラブには、スタジアムを巡る異色の過去もある。1912年からのホームだった旧プラウ・レーンが全座席制への改装に向かず、91年に始まったロンドン南東部のセルハースト・パーク(クリスタル・パレスのホーム)間借り時代に、クラブとしての移転を厭わなかったMKドンズ(現4部)との2団体に分離してしまった。 だが、地元に残った“ドンズ”にとってのプラウ・レーンは、旧スタジアムと同じマートン地区に建つ、由緒も正しい愛しの「我が家」にほかならない。そのホーム観衆はカーライル戦でも、70年代のヒット曲「カントリーロード」のメロディーに乗せて、「自分の居場所に連れていってくれ。ロンドン南西部のプラウ・レーンへ」と歌っていた。 そもそも、洪水のリスクがない場所に逃げる手段は、根本的な対応策とはなり得ない。天候によるスタジアムへの被害ではピッチ凍結が以前から一般的で、リーグ開幕時期を早め、夏季の長いシーズンに移行すれば良いと言う人もいる。 ところがイングランドでも、夏は夏で気温が上る傾向にある。再来年からJリーグのシーズンが「秋春制」となる日本ほど暑くはない。とはいえ、以前は30度台の日が数えるほどしかなかっただけに、一昨年7月に40度台も記録された今では、選手の脱水症状といった懸念材料も指摘される。筆者が移り住んだ90年代、車の購入時にオプション扱いだったエアコンは、すっかり標準装備と化している。 気候変動を招く地球温暖化の解決には手遅れだと言われるが、だからといって逃げ道を探すのではなく、イングランド・サッカー界の沈没にも等しい最悪のシナリオを避けるべく、対応策を取る必要がある。