30分で4度の爆発、傷だらけのデッキ――スケーターたちへの現地ルポで迫る、ウクライナ侵攻2年の「いま」
この国が、この街がどうなろうとも、彼らはスケートボードに乗る
仲間からはレジェンドとして慕われ、チャイカと呼ばれているスケーターがかつてのハルキウのスケートシーンを話してくれた。 「昔は合板が高くて手に入らなかったんだ。だから廃墟に忍び込んでドアを盗んでくる。それをナイフで削ってスケートボードみたいなものをつくってたよ」 彼が言うにはそもそもウクライナにスケートボードという文化が入ってきたのはロシアからだという。そしてロシア国境に近いハルキウでは、ウクライナでもいち早くそのカルチャーは浸透した。 そしていまでは考えられないことだが、侵攻以前はたびたびロシアからスケーターが遊びにきて、交流が盛んだったらしい。このオペラ劇場前の広場でもともにトリックを披露しあっていたという。たった2年前のことだ。 その話を脇で聞いていたのか、ベンチに座っていたスケーターが「戦争はクソだ。戦争はクソだ」と繰り返した。そして彼はすぐにボードに足をかけ、プッシュを続けトリックを試みた。 戦時下にあるこのウクライナでスケートボードに乗るということは、現実から身を背けることではない。現実と向き合うためだ。このどうしようもない世界にあっても彼らには絶対に譲れないものがある。 それは、己が国家やシステムの一部ではなく、「いまここにいる自分自身である」ということだ。だからこそ彼らは今日もスケートボードに乗り、プッシュを続ける。 この国が、この街がどうなろうとも、広場でスケートボードに乗る彼らの姿はこの先もきっとある。
テキスト・撮影 by 児玉浩宜 / 編集 by 川谷恭平