若手教師が育つ学校「中堅教員」のふるまいが違う 「誰一人取り残さない」温かい学校をつくるには
4~5年目の若手さんへの寄り添い方
4年目の若手さんに対して、まず投げかけたい問いはこれです。「今回この仕事を担当するにあたって、あなたはどうしたいと思ってる?」。 私がこれまでに若手さんと関わってきた感覚では、問いかけに対して、すぐに自分の考えを言える若手さんはほとんどいません。 この問いかけの目的は、すぐに答えを出してもらうことではありません。問われたことをきっかけにして、自分に任された仕事と向き合い、自分の理想や願望についてじっくりと考えてもらうことが目的です。 「責任が重いなぁ」「失敗したらどうしよう」と考えてしまうのは、部屋に入りたい気持ちはあるのに、ドアの手前で立ちすくんでしまっているようなものです。この段階はまだ、仕事の課題や目的を自分事として捉えられていない証拠だと私は受けとめています。 自分のやりたいことや目的、やるべきことがはっきりと見えてくれば、不思議とブレずに前へ進めるようになります。まずは、若手さんの思いを引き出すことで、入り口まで一緒につき添ってあげることから始めるとよいでしょう。 若手さんの思いを引き出せたら、行事を担当するにあたっての最上位の目的を明らかにします。目的が明確になったら、それを他の先生方や子どもたちと共有するための手段を考えます。 行事に限らないことですが、初めてチーフを任されたときは、全体の見通しをもてません。もし、こまめに声かけする余裕がない場合には、やるべき仕事を見える化しておきます。 周りに仕事を振れない理由には、次の4つのパターンが挙げられます。 (1)「抱え込み」パターン……チームでやる発想に転換を (2)「後輩不信」パターン……後輩育成の自覚をもたせる (3)「遠慮がち」パターン……積極的に御用聞きをする (4)「タスク管理ニガテ」パターン……仕事を振る準備を手伝う 若手さんが仕事を任されたときに陥ってしまいがちなのが(1)です。抱え込みが常態化すれば、疲労はたまる一方で、いずれ破綻します。そのため、若手さんには「仕事にはチームワークが大切である」という基本を理解してもらう必要があります。 また、中には「仕事を振らずに自分一人でやり遂げることによって、自分の評価を上げたい」と考える若手さんもいます。この場合は、「個人の勝手なプレーは評価されない」ことを正しく理解してもらう必要があるでしょう。 教員になって4~5年目にもなると、かつては自分が仕事を振られる側だった若手さんも、仕事をうまく後輩に振った上で、後輩の面倒を見ていくスキルが求められるようになります。それでも仕事を振りたがらない(2)の若手さんには「あなたが自分一人でうまく仕事を処理できることはわかっているけど、チーフは人を信頼して仕事を振るのが役割なんだよ」と繰り返し伝えていきたいものです。 (3)は、周りに気を遣う若手さんほど、相手の顔色や反応が気になってしまい、自分から仕事のお願いを切り出せません。 そんなときは、ミドルさんが助け舟を出してあげたり、自分から積極的に御用聞きを申し出たりするなどして、若手さんが仕事を振りやすい雰囲気をつくることが大切です。そうしているうちに仕事を振ることにも少しずつ慣れ、「担当として仕事を振るのは自然なことなんだ」という感覚が身についてくるでしょう。 (4)の場合は、やるべき仕事の全体像を把握し、それを誰にどう分担していくのか、タスクを細かく切り分けられれば解決します。 そこで、まず仕事の内容をヒアリングした上で、具体的に仕事を割り振る計画を立てるよう提案します。その際、誰にどの仕事を任せるかについては、必ず意図をもって行うようアドバイスします。 最後に、本当に大切なのは、若手教員に指示を出したり、教え込んだりすることではありません。もちろん、サポートをする過程で適切に教えたり指示をしたりする場面は必要です。 しかし、最終的には若手教員が自分の力で考え、行動できるようになることが最終の目的です。若手教員の心に火を灯して「もっと学びたい」「もっと成長したい」という前向きな思いを育てることこそが、人材育成なのではないかと思います。 (注記のない写真:すべて東洋館出版社提供)
執筆:横浜創英中学・高等学校教諭 前川智美・漫画・イラスト:すやすや子・東洋経済education × ICT編集部