山形マット死で遺族が元生徒ら提訴 民事裁判の賠償命令に強制力はないの?
「強制執行」にもいろいろな限界が……
しかし、この強制執行にも実は限界があります。私法の特徴として「権利者が言わなければ何も起きない」「自分の財産は自分で確保しなさい」という法の趣旨があるのです。裁判自体も原告が自分で行わなければ何も起きません。同様に強制執行の場面でも、国や裁判所は最低限のことしかやらず、例えば相手の財産がどこにあるかは原告自身で探すことが前提となっているのです。 そして、損害賠償請求の強制執行では、被告の財産を差し押さえることになります。その財産は不動産や預金、給与が考えられます。不動産は、登記簿で確認できるので、財産の所在は比較的発見できる可能性がありますが、問題は財産が預金や給与しかない場合です。 「預金を差し押さえるとなると、銀行名だけでなく支店名まで特定する必要があるとされています。その支店名を把握するには、これまで相手と取引があって口座を知っているなどの状況でないと現実的に見つけるのは難しいといえます」(高橋弁護士) また、給与の差し押さえでは、相手がどこで働いているかを探す必要があります。
被告側が支払わないケースも実際あるの?
懸念材料もあります。差し押さえた銀行口座などに財産がないという“空振り”の可能性もあるのです。この場合は、強制執行の費用を原告が負担するだけとなってしまいます。高橋弁護士は「預金を押さえる場合、例え支店名が特定できたとしても口座にいくらあるのかまでは分かりません。その状況で差し押さえをすることはリスキーです」と話し、今後の費用なども考慮して強制執行を諦め、時効で消滅してしまうこともあるといいます。 では、万一の不払いを防ぐ方法はあるのでしょうか? 高橋弁護士は判決前ならできるとした上で、保証人をつけて和解する方法を挙げました。「損害賠償額を減額する代わりに保証人をつけるのです。例えば、親とかある程度お金を持っている人ですね。もし被告が支払ってくれなくても保証人に対して請求できるのです」(高橋弁護士)。相手の裁判中の資産に不安がある場合は、このように担保をとった上で裁判を終わらせることも、損害賠償の支払いには有効だということです。