「トランプ2.0」は吉か凶か、FRBがトランプ氏の政策に翻弄されるのは必至
問題は、多くの産業で世界の先頭を走るアメリカで幼稚産業保護が機能するかだ。むしろアメリカの競争力低下を懸念する人も多いだろう。 ただ経済ナショナリズム政策では、戦後の高成長の礎となり数々のイノベーションを生み出した国防総省・国防高等研究計画局の活用が技術覇権強化の中心として据えられている。バンス次期副大統領が提唱する労働者の技能底上げのための教育改革やトランプ1.0(1期目)で未完に終わった大規模インフラ整備も構想されている。必ずしも競争力や潜在成長率を低下させる政策とはならない。
超大国のアメリカが高関税を課すことは、世界経済への大きな重しにならないのか。そのリスクはあるが、中国への大幅関税強化はあくまでディールの材料であり、実行されるかどうかは不確実だ。 実行されれば、中国経済の落ち込みで同国と貿易の多い欧州や日本を含むアジアの国々に大きな悪影響が及ぶだけでなく、アメリカ自身も返り血を浴びる。アメリカも極力避けようとするはずだ。 トランプは中国のイデオロギーを問題視しておらず、同国が市場開放や輸入拡大を打ち出せば、関税強化を見送る可能性もあるだろう。興味深いのは、白人低所得層男性の「絶望死」の原因の1つとされる合成麻薬「フェンタニル」(原料は中国生産)のアメリカへの流入を関税強化の理由に掲げたことだ。中国も受け入れやすいだろう。
3つ目のトランピズムであるアメリカ第一の外交は一見、経済政策とは関係がないように映る。ただ、ウクライナ和平が早期に到来すれば穀物価格が下落する。中東情勢が和平に向かえば、アメリカ国内のシェールガス大量採掘と合わせ、エネルギー価格は下落する。食料やエネルギーの価格下落が人々のインフレ期待を抑えるかもしれない。 このほか、財政タカ派とみられるスコット・ベッセントが財務長官に就くことや、イーロン・マスクが政府の効率化に尽力することも財政膨張の歯止めとなるだろう。