「すべて松下電器の落ち度です」代理店の責任者を涙させた、松下幸之助の謝罪
一代で世界的企業を築き上げ、"経営の神様"と呼ばれた松下幸之助だが、成功の陰には数々の感動的なエピソードがあった――。稲盛和夫氏に衝撃を与えた言葉、松下電器系列の販売会社、代理店の責任者たちを涙させたスピーチ...。3つのエピソードを紹介する。 【写真】整列する社員に声を掛ける、1968年の松下幸之助(当時73歳) ※本稿は、PHP理念経営研究センター編著「松下幸之助 感動のエピソード集」(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
まず願うこと
"川にダムがなければ、少し天候が狂っただけで、洪水になったり、干魃になったりする。しかしダムをつくれば、せきとめ溜めた水をいつでも有効に使うことができる。それは人間の知恵の所産である。経営にもまたダムがなければならない。 経営者は『ダム式経営』、つまり余裕のある経営をするよう努めなければならない幸之助は、京都の中小企業経営者が集まった講演会で、持論の"ダム式経営"の勧めを説いていた。 話が終わったとき、一人の経営者が質問をした。 「今ダム式経営が必要だと言われました。が、松下さんのように成功されて余裕があるところではそれが可能でも、私どもにはなかなか余裕がなくてむずかしい。どうしたらダムがつくれるのか教えてください」 「そうですなあ、簡単には答えられませんが、やっぱり、まず大事なのはダム式経営をやろうと思うことでしょうな」 このときの聴衆の一人に、今は世界的な企業に成長している会社の経営者がいた。創業して4、5年、まだ経営の進め方に悩んでいたころである。この幸之助の答えにその経営者は、身の震えるような感激と衝撃を受けたという。のちに、幸之助と対談した際、彼はこう言っている。 「そのとき、私はほんとうにガツーンと感じたのです。余裕のない中小企業の時代から"余裕のある経営をしたい、おれはこういう経営をしたい"と、ものすごい願望を持って毎日毎日、一歩一歩歩くと、何年か後には必ずそうなる。"やろうと思ったってできませんのや。 何か簡単な方法を教えてくれ"というふうな、そういうなまはんかな考えでは、事業経営はできない。"できる、できない"ではなしに、まず、"こうでありたい。おれは経営をこうしよう"という強い願望を胸に持つことが大切だ、そのことを松下さんは言っておられるんだ。そう感じたとき、非常に感動しましてね。 ただ多くの聴衆の中には、そういう精神的なものについてはあまり好きではないものだから、何かもっと簡単な、アメリカ的な経営のノウハウでも教えてもらえるのではないかと期待していた人も多かったようですがね」 *この経営者とは、京セラ創業者・稲盛和夫氏のことで、今やよく知られたエピソードとなっている。