セレクトショップ「アマノジャク」ディレクターが語る“良いブランド”の定義
「売って終わりではない」精神が顧客との信頼生む
ー接客の際は「カルテ」と呼ばれる顧客ごとの資料を作ってリピートに繋げていると聞きました。 カルテに関しては、2018年のオープン時からずっと継続しています。僕はかつて働いていたセレクトショップを辞めてからとあるアイウェアショップに勤務していたのですが、眼鏡って視覚矯正器具なのでショップにお客さんごとのカルテがあるんです。「最近乱視が酷くなっている」「徐々に度数を強めている」といったお客さんの情報をスタッフ間で共有して接客に役立てる仕組みなんですが、物を売って終わりではない、売買契約の先まで見据えたサポートはお客さんとの信頼関係に繋がると常々感じていて。これを服屋に応用したのがアマノジャクの「カルテ」です。以前興味を持ってくれたアイテムはもちろん、「彼女さんとここに行くと言っていた」みたいなささやかな情報もメモしています。折角お客さんと色々お話したのに、担当するスタッフが代わるだけでリセットされてしまうのってお互い悲しいじゃないですか。 ー顧客との信頼関係を何より大切にしているんですね。 身も蓋もないことを言えば、セレクトショップという業態で「ここにしかないもの」は基本的にはないですから。置いている商品で差別化ができない以上、違いは「空間」と「人」でしかない。「ここのお店で買いたい」「この人から買いたい」と思ってもらえるような店作りを突き詰めてきたつもりです。 ーアマノジャクでは、アフターサービスとして服のボタン付けや靴磨きなども請け負っていますよね。 そうですね。お客さんの中にはウチで初めて新しいブランドに挑戦してくれたという人もいるんですが、そんな時に偶然ボタンが緩かったりしてブランドにマイナスイメージを持たれてしまったらお客さん、店、ブランド全てにとって良くない。そういった“事故”を防ぐためにも、ボタン付けくらいのカジュアルなケアはショップ側で対応するようにしています。靴磨きにしても、鏡面磨きのような専門的なことは別ですが、デイリーなケアくらいならお金をとってやるようなことではないなと。それに、先ほども言いましたが「売って終わりではない」といった安心感をお客さんに感じていただくことが「Amanojak.で服を買う理由」になると信じていますから。 ー開店当初からブランドも着実に増え、最近では「カラー(kolor)」「アクロニウム(ACRONYM(R))」などのブランドも加わりました。今ショップで特に好調なブランドは? 現在店頭で勢いがあるブランドは「リック・オウエンス(Rick Owens)」と「グイディ(Guidi)」ですね。どちらもここ2~3年で取り扱いを始めたんですが、スタッフが大好きなブランドということもありSNSでスタイリング提案を続けた結果、今ではお客さんの心をガッチリと掴んでいます。リック・オウエンスは取り扱い当初と比べオーダー数を4倍ほどに増やしていますが、それでも90%以上はプロパー消化できていますし、グイディに関しても2023年実績で初年度の5倍となる約100足を売り上げました。 ーグイディのアイコンブーツ「PL1」は1足25万円ほどですから、ざっと計算してグイディだけで2500万円ほどの売上が立っている訳ですか。凄いですね。 グイディは2023年に発売したアマノジャク別注モデルも好評でしたし、まさにショップの顔とも言えるようなポジションになってきましたね。多くの人がグイディを買う時に「これまでの人生で購入した靴の中で一番高いアイテムになりました」と言ってくださるんですが、そういったかけがえのない体験をアマノジャクでしてくれるのはショップを営む身としては本当に幸せなことです。 ー1月には北千住店を移転しリニューアルしました。 北千住店は1号店だったこともあり、売場面積は2号店となる千駄木店の2/3程度と控えめだったので、催事などを開催しづらいといったデメリットがありました。また、これ以上ブランド数が増えると全てのアイテムを展開できなくなるのではといった懸念もあったので、今回のリニューアルで全ての憂いを払拭できたのは良かったですね。早速2月には、北千住店でターク デザイナーの森川さんの在廊イベントを実施しました。