アルバイトが商談まで…ドンキの躍進を支える“権限委譲”の文化とは
安田イズムを伝える「源流」~「権限委譲」の真髄とは?
このミリオンスター制度は、創業者の安田が「権限委譲」をより根付かせるために導入した。安田に請われて入社した吉田は、この「権限委譲」に頭を悩ませてきたと言う。 吉田がドン・キホーテ(現PPIH)に入社したのは2007年。数年後、「権限委譲」について深く考えさせられる出来事が起きた。 吉田が部下の法務部長にあれこれ細かく指示を出した時のこと。しばらくすると安田から電話があり、『「権限委譲」とは何か?』と問いただしてきた。吉田が何を言っても「違う!違う!」とけんもほろろ。そして「権限委譲とはプロセスコントロールをしないこと。以上!」と言い放った。 「喉元まで出ても、どんなに正しいことでも、権限委譲したのであれば言ってはダメなんだと。それは本当に驚きました」(吉田) 吉田が大事にしている本『源流』は、安田が2011年に記したドン・キホーテの理念集だ。 その中には、企業原理の「顧客最優先主義」や経営理念でもある「権限委譲」などについて選び抜いた言葉で書かれている。吉田が繰り返し開いていると言うページには「信頼と尊敬の善循環」と書かれている。 「どんなに正しいことを言っても、人がついてこなければ意味はない。そのためには信頼され、上司は尊敬されるようにならないといけない」(吉田) 極端な戦略を支える考え抜かれた理念。かくしてドン・キホーテの大躍進は生まれた。
世界最大級店が誕生!~ドンキの世界戦略とは?
2024年4月、アメリカ・グアムにオープンした「ヴィレッジ オブ ドンキ」、通称「ドンキ村」。 売り場面積は約1万1000平米。ドン・キホーテとして世界最大級の店舗となる。 店内には観光客の姿もあるが、メインターゲットは観光客ではない。奥の生鮮食品売り場に来ていたのは現地の人たちだ。
並んでいたのは山形産のデラウェアや長野産のシャインマスカット、青森産のリンゴ「ふじ」。日本産の野菜や果物が現地の他のスーパーより安く販売されていた。PBの納豆は3個パックで約300円。販売している食品約8200点の半分ほどが日本のものだという。 「牛丼」を日本流に試食販売している。ここは日本の「食」を徹底的に売り込む食品輸出の最前線となっているのだ。 ドン・キホーテは今、海外進出を加速させている。2019年に社名をパン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス(PPIH)に変えたのも戦略の一環。その名の通り、太平洋を囲むように海外進出し、すでに113店舗を展開。海外だけで売り上げは3000億円を突破した。 週に2~3回は来ると言うヘビーユーザーのテセウスさん一家がかごに取っていたのは人気の博多ラーメンチェーンの「一蘭ラーメン博多細麺ストレート」(3食、約3900円)、ドン・キホーテのPB「情熱価格」の「超特大!ガバガバ食べられるラー油」(約900円)、値が張る和牛ステーキなど他にも日本の食材をどっさり。会計はしめて308ドル(約4万5000円)だ。 ドン・キホーテがグアムにできて、一家の食生活は変わったという。 「日本の新しい食を試せるなんて、うれしい驚きです」(テセウスさん) ※価格は放送時の金額です。 ~村上龍の編集後記~ 20年くらい前の夏、渋谷で夕立が来た。ドンキの店頭にビニール傘が売っていた。マジックで黒々と100円と書いてあった。すぐ買った。夕立が来たのとビニール傘はほぼ同時だった。今考えると誰が用意したのだろうと思う。創業者が書いた『源流』の企業原理は「顧客最優先主義」で、第3条は「現場に大胆な権限委譲をはかり」とある。店のバイトがビニール傘を用意し100円という値段を決めたのだ。このエピソードはドンキの全てを象徴している。売上高は2兆円。その全ての努力は、バイトが用意したビニール傘が担っている。 <出演者略歴> 吉田直樹(よしだ・なおき)1964年、大阪府生まれ。1988年、国際基督教大学教養学部卒業。1995年、INSEAD卒業(経営学修士)、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。2002年、オルタレゴコンサルティング設立。2007年、ドン・キホーテホールディングス(現PPIH)入社。2013年、専務取締役就任。2019年、代表取締役社長CEO就任。 ※「ガイアの夜明け」より
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