アルバイトが商談まで…ドンキの躍進を支える“権限委譲”の文化とは
今では国内外の商品約1000点を販売。100リットルの「拡張ジッパーキャリーケース(Lサイズ)」1万3189円など、手頃な商品が多い。驚くべきことに、毎日、並んでいる商品の8割が売れてしまうと言う。 大量のお菓子とキャリーケースを買った客が、店内の隅で、買ったお菓子をキャリーケースに詰め始めた。ドン・キホーテで土産物とキャリーケースを一緒に買って持ち帰るやり方が、外国人観光客の間で広まっている。この行動に気づいた西川は売り場を拡大していった。 「まだまだ売れると思います。思惑通りです」(西川) 一方、東京・大田区の京急蒲田駅の改札から近くにあるドン・キホーテ京急蒲田店の店内はコンビニのような雰囲気が漂う。目立つ場所に並んでいるのはオリジナルの弁当やおにぎり。駅を利用する学生や会社員が立ち寄ることが多く、コンビニ代わりに使えるように店作りを行っている。 ドン・キホーテらしさもちゃんとある。カラーコンタクトの売り場だ。ドン・キホーテはカラーコンタクトの店舗売り上げトップ。若い女性客が立ち寄るこの店でも売り場を強化している。 「10代、20代の女性のお客様が増えました。そのおかげでコスメ全体の数字が向上しました」(店長・齊藤一) 個人店のように店を作る。この柔軟性こそドン・キホーテの強みなのだ。
不振の「ユニー」が復活!~ドンキ式驚きの店作り
2019年にPPIHの傘下に入ったスーパーの「ユニー」が今、絶好調だ。 愛知・稲沢市の「アピタ」稲沢店。売り場は以前とさほど変わっていないように見えるが、中身は別の店になったようだと言う。「ユニー」時代から24年、この店で働いている菓子売り場担当のパート・橋本よし子は「一番変わったのは『発掘商品』。自分で特別な方法で注文して並べる」と言う。 以前は本社が決めた商品が届き、どの店舗も同じ商品が同じ場所に並んでいた。それが今はドンキ式の権限委譲が進み、売り場担当者の裁量で仕入れもできるようになったのだ。 橋本が仕入れたのが「ピーナッツ煎餅」。「1カ月で700~800個売れて自分でもびっくり」と、菓子売り場の人気ナンバーワン商品になった。 「当たり前のものを売って、売れるのは当たり前。でも『これ、いいかな』と思って仕入れた商品が、在庫を切らせないぐらい大事な商品になると、すごいと思います」(橋本) 各売り場の担当者がそれぞれの判断で商品を仕入れ特色を出すと、店全体に相乗効果が波及。買収から5年で年間売り上げは900億円増加し、2024年は7029億円に。営業利益は2倍以上の448億円に膨らんだ。 9月、ユニーの本社に社員たちが集結した。集まったのは新たな人事制度、ミリオンスター制度のもと、支社長を任された人たちだ。 ミリオンスター制度とは、人口100万人の商圏ごとに区分けし、そこにある数軒の店舗の経営を支社長に任せるというもの。権限は社長と同等という究極の「権限委譲」が行われる。ドン・キホーテにはこうした支社長がすでに158人(ドン・キホーテ104人、ユニー54人)も生まれている。 「ほぼ自分でやりたいことを決められる。非常に魅力のあるポジションだと思います」(アピタ名古屋第1支社長・五十嵐愛) しかし、一度就任したら安泰、というわけではない。都内6店舗の東京A第4支社長を務める竹内斐は、かつて「最初の上半期で下から3番目になったこともあり」降格の危機に。ミリオンスター支社長は、成績が悪ければ留まることのできないポジション。そこで竹内は売り場改革のテコ入れを行い、残りの半年で結果を出し、降格を免れた。 「結果を出すためのギリギリの状態だからこそ『本当の本気』が垣間見える」(竹内) 支社長同士を競わせることで全体の底上げを図るのも狙いなのだ。