登校率8割、公立「学びの多様化学校」の独自教育 玖珠町の挑戦「誰もが安心して通える学校を」
急ピッチで「学びの多様化学校」をつくった訳
文部科学省は、学びの多様化学校(旧不登校特例校)を、2027年度に全都道府県・政令指定都市に1校以上、将来的には全国300校の設置を目指すとしている。現在ある35校のうち11校が2024年4月に開校したが、その1つが玖珠町立学びの多様化学校(大分県玖珠町)だ。同校が開校に向けて動き出したのは、昨夏のことだった。急ピッチで開校を進めた背景には何があったのか。そして今、登校率は8割だというが、どのような教育を展開しているのだろうか。 【写真】在籍児童全員がテーマを決めて一緒に活動する「ワールド探究活動」とは? 人口1万4061人、児童生徒数966人の大分県玖珠町に今年4月、玖珠町立学びの多様化学校が開校した。九州では初の小中一貫校(義務教育学校)の学びの多様化学校(以下:多様化学校)である。 その背景にあったのが、町内の小学校6校、中学校1校における不登校の増加だ。とくに中学校の不登校出現率は1.2%(2014年)から12%(2023年)と10倍に増えていた。これは全国平均よりも高い。 こうした現状報告が2023年1月の総合教育会議で行われると、教育委員会は7月から先進地域の事例調査を開始、多様化学校設立に向けて総合教育審議会を実施し、12月には設置条例を制定。そして、2024年3月に文部科学省の指定を受け、翌4月に開校した。 急ピッチで開校に至った理由を、玖珠町教育委員会教育長の梶原敏明氏はこう説明する。 「通常の行政的なスケジュールで進めていたらできません。しかし、災害が起こった時に『予算を組んでいないからできません』『制度がないから対応できません』とはなりませんよね。それと同じです。今困っている子を、今すぐに助けなければ。子どもたちの生きる道を閉じてはいけないという一心で、着々と準備を進めました」 しかし、予算ゼロで新しい学校をつくるには、町内すべての関係者に理解してもらう必要がある。そこで教育委員会は、教育長のメッセージを町内の学校に配布した。 “不登校児童生徒への支援を考える際に、避けなければならないのが、不登校を児童生徒自身・家庭だけの問題と考えて事態を矮小化してしまうことです。不登校は決して個人の問題に留まるものではなく、パンデミックなどにより、世界規模で価値観が変容した今日において、これまでの学校教育のあり方、子ども・家庭を取り巻く社会のあり方を見直すための問題提起と捉えるべきだと思います” この強い思いは町民にも伝わり、続々と寄付が集まってその額は870万円に達した。廃校になっていた学校を使うに当たり、無償で整備を行ってくれたのも町民だという。時間もお金も人も足りない“ないないづくし”の中、地域の支えがあったからこそ開校できたという。 「教育委員会の職員が『やろうじゃないか』と一つになってくれたのも大きかったです。ほかの学校と遜色ないようにするため、施設をどうするか、スクールバスをどうするかなど、それぞれの役割・立場で取り組んでくれました」と梶原氏は振り返る。