登校率8割、公立「学びの多様化学校」の独自教育 玖珠町の挑戦「誰もが安心して通える学校を」
新設教科「対話」を通じて子どもたちに変化
カリキュラムとしては、前述した個別で学ぶ教科学習や「探究(マイ探究、ワールド探究)」のほか、玖珠町の豊かな自然と触れ合ったり畑づくりをしたりする「野遊び」、子ども同士が話し合う「対話」といった独自の教科がある。下図は、1日の流れのイメージだ。 とくに「対話」の大切さについて、小原氏はこう説明する。 「本校独自の新設教科である『対話』には、朝対話と夕対話があります。一般的にはホームルームのような位置付けですが、教員が一方的に事務連絡をする時間ではありません。子どもたちが輪になって対話し、自分を表現して他者との違いを認め合う力を育むのが狙いです。1学期が始まった時点では子どもたち全員が転校生の状態ですから、みんな緊張していました。しかし、朝対話や夕対話で『今日の気持ちはこう』と話すと、ほかの子が反応してコミュニケーションが生まれます。これを日々繰り返すうちに子どもたちは自分を表現できるようになってきており、対話の効果を実感しています。最近の7~9年生は人権問題など社会課題を取り上げるようになり、9年生は進路の意見交換をする姿も見られます」(小原氏) 中学部は将来や進路について考える時期とも言えるが、進学指導や成績評価についてはどうだろうか。 「本校はチーム担任制が特徴ですから、中学部の教員4人がみんなで支えていきます。1人が担当者という位置付けですが、ほかの3人の教員も含めて9年生の面談を繰り返して進路を明確にしていきます。こうすることで、教員が一人で抱え込むことがなく、生徒側も話しやすい先生に相談することができます。また、本校は通常の学校にある5教科も実技教科もなくしてはいません。高校に進学しやすい体制にするため、既存教科の量を少しずつ減らす形で新設教科を作り、評定の付け方も通常の学校と同じにしています。ちなみに今、9年生全員が高校進学を希望していますね」(小原氏)
不登校の子のための学校ではなく「未来の学校」
しかし、なぜ小中一貫校なのだろうか。2023年に文部科学省の研修制度で玖珠町に派遣され、学びの多様化学校に設立から携わる玖珠町教育委員会参事の上田椋也氏はこう答えた。 「人口が少ない本町では、小学校か中学校かどちらかの多様化学校をつくるのではなく、どの学校段階のお子さんにもご入学いただけるように、おのずと全学年を網羅する小中一貫校になりました。中学生が小学生を支える姿も見られ、異年齢学級をはじめとする『みんなでつくる学校生活』というコンセプトとも親和性が高いと感じています」 さらに上田氏は、同校は「不登校の子のための学校」ではないと強調する。 「この学校の設立は、『教育に関わる大人の責任として、今までの学校がすべての子どもにとって安心して通える学校だったのかを考え直してみよう』という議論からスタートしました。そして明確になったのは、不登校のお子さんのための学校ではなく、すべてのお子さんにとっての未来の学校、どんな子も安心して自分らしく通える学校を目指そうということ。そのためにも『指導』ではなく『支援』という言葉を大切にしていますが、だいぶ浸透してきたと感じますし、実際に教員の皆さんが伴走的な支援を意識的に実践してくださっていると思います」(上田氏) 手探りで取り組む教員たちの支えになっている存在もある。併設する「わかくさの広場(教育支援センター)」だ。 「玖珠町では以前から各学校にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを配置するほか、わかくさで不登校支援を行ってきました。わかくさで指導にあたるのは校長を退職した方などキャリアが豊富な方ばかり。多様化学校はこのわかくさと併設して連携しているので、多様化学校の教職員たちはわかくさの指導者の子どもとの接し方や考え方に触れられるのです。これは貴重な機会となっています」(小原氏)