『虎に翼』脚本・吉田恵里香に聞く。あらゆる立場の女性を描くこと、憲法第14条への思い 「寅子だけが正しいわけではない」
「エンターテインメントでやれることがある」
―SNSを通しても反響が届いていると思います。 吉田:SNSは自分の発信メインで使っているんですが、寅子の言葉を借りれば、当時は折れて、世の流れに身を任せた人もいっぱいいると思うので、まずそれを知ってもらうことが大事だと思います。 当時から悩んでた人が確実にいて、いまも悩んでる人がいることを否定するのは違うと思っていて、問題提起というか、何かにつながればいいなと思います。あと、やっぱり当事者の人が矢面に立つべきではないと私は思うので、社会や政治もそうですけれど、エンターテインメントでやれることが少なくともあるんじゃないかと思いました。 ―配役には当事者の俳優も起用されています。キャスティングに関して何か意図や考えはありましたか? 吉田:キャスティングは、スケジュールなどいろいろなハードルもあるなかでスタッフの方々が主にやってくださり、すごく素晴らしいなと思っています。 そういう機会がもっと増えるべきで、私は全面的に賛成です。ただ参加された方が傷ついたり不快な想いをしたりしない環境が整ってほしいです。非常に悲しいことですが、法整備も整わず、いまなお偏見や差別がある中で自身のことをオープンにできない・したくない人は多い。当事者を起用するという動きが変な方に進んで「当事者の役者さんはシスヘテロの役をやってはいけない」など、役者さんの演じる機会が減ってしまうようなことは絶対に避けたいです。起用だけして矢面に立たせる現場が増えないか心配もしています。
原爆裁判を描いた理由 「戦中よりも戦争の傷跡を描きたかった」
―終盤では、原爆裁判も大きな山場として描かれます。どんな思いを込められましたか? 吉田:三淵さんが原爆裁判を担当されていることは彼女の半生を調べたときからわかっていたので、扱いたいと思っていたんですが、扱い切れるのかという不安もありました。ただ、このスタッフさんやメンバーであればがっつりやっていけると思って、書き始めてから真正面からやる覚悟が決まりました。 もともとこの作品自体、戦中よりも戦後をやりたいと思っていて、第9週からずっと戦争の傷跡を描いています。その一つの大きな山として原爆裁判を扱いたかった。 法律考証の先生方を含め、演出の方を含め、本当にいろいろなことを調べていただきました。原爆が落ちたということはみんな知っていると思いますが、30数年間生きてきた自分も知らないことだらけで、たくさん思うことがあり、いま取り上げるべき歴史だと感じました。 ―「戦中よりも戦後を」とおっしゃっていましたが、『虎に翼』で戦時中の放送期間は約1週間のみでした。広島や長崎に原爆が落ちたことを新聞で知る、というような描写もありません。どういった意図があったのでしょうか。 吉田:8週目から、社会に出た女性だった寅子自身が、心が折れたこともあって社会から心を閉ざすというか、家庭に入って家族のためだけに働くようになります。その描写をするために、あまり新聞を見なくなるなど、寅子が知らないことや見ないことは本編でも見せないようにしようと思っていました。 裁判官編ではどうしても寅子が見ていないことも情報として視聴者に伝える必要があるので、語りで見せることはしたんですが、第9週に河原で憲法を目にするまでは寅子に寄り添った描き方をしたいと思っていたので、具体的な描写は省いていくという方法を選びました。 実際に調べていくと、生活や生きるために動いていた人のなかには、その情報まで行き着かなかった人も多かったこともわかりました。戦争が終わったことを知らないまま数日過ごす方もいたと。実際にそうなるだろうなと思いましたし、寅子は物語の最初から新聞や社会情勢を気にしている子だった分、その対比をつけるという意図も大きかったです。