『虎に翼』脚本・吉田恵里香に聞く。あらゆる立場の女性を描くこと、憲法第14条への思い 「寅子だけが正しいわけではない」
男性を描くうえで意識したこと「すべてにおいて正しい人や善人はいない」
―男性が女性たちを抑圧している側面もあり、そういったシーンも描かれました。男性を描くにあたって何か考えたことはありましたか? 吉田:女性の社会進出や生きづらさを書いている作品ではあるんですが、それは社会にあるすべての生きづらさにつながると思っています。もちろん男性の特権というものはあると思いますが、それがあればあるほど男性も余計に生きづらかったり、しんどい思いをしてしまうのだと思います。それがなくなると、すべての人が生きやすくなる。 女性が生きやすくなったから男性が生きづらくなるというのは違うので、それはすごく気をつけて描いています。だけど、男女問わずですが、理解あるフリをして傷つけてしまうこともあるし、まったく理解できない人もいる。これだけ寄り添ってやっているのにという気持ちは多かれ少なかれ生まれてしまうのが人間だと思うので、私のなかにもある意味、穂高先生的な部分があるなと思います。 そのグラデーションに気をつけて、すべてにおいて正しい人や善人はいないということを意識しながらキャラクターを描いています。
「人らしく生きるため、スタートラインにあるもの」憲法第14条への思い
―物語の根底に憲法14条の存在があると思いますが、そこにはどんな思いがあったのでしょうか。 吉田:三淵嘉子さんをモデルにしようと思ったとき、日本国憲法を初めて最初から最後まで読みました。人によって響くところは違うと思いますが、読んであらためて心に響いたのが14条だったんです。 これが公布されたら、当時の人は宝物のように感動するだろうなと思いましたし、私たちにとってもすごく大事なことだけれど、いまの世の中で本当に果たされているだろうか、ちょっと横に置かれていないか、という気持ちが大きかった。なので、「14条だけでも覚えて帰ってください」じゃないんですが、14条だけでも思い出してほしいという気持ちで、ことあるごとに出しています。 こんなに扱うとは自分でも予想外だったんですが、話を書いているとそこに辿り着いてしまうんです。生きていくうえで、人らしく生きるため、スタートラインにあるものなんじゃないかと思ってます。せめてこの憲法が守られる世の中になったらいいなという気持ちを込めました。 ―よねと轟の事務所の壁にも憲法第14条が大きく書かれていますが……。 吉田:じつは、「紙に書いて壁に貼ってある」と脚本に書いたんですが、まさか壁に書くとは、と思って(笑)。たしかに、よねなら壁に貼らずに壁に書くかもと思ったので、すごく好きで、いい演出だなと思いました。あの言葉がずっと残っていることで象徴として使われているので、すごく好きです。