健康な人は「骨」に気をつけている…年間に40%も生まれ変わる「骨の新常識」
年間に40%も骨が生まれ変わる「骨代謝」
骨は、骨皮質(こつひしつ)という貝殻のように硬い表面部分と、海綿質(かいめんしつ)という内部のスポンジ状の部分の2層構造をしています。 その海綿質は年間40%、骨皮質は7%程度も新陳代謝が営まれ、修繕工事で入れ替わっています。 このように日々、古い骨が壊され、新しい骨が誕生することを「骨代謝」といいます。 骨代謝では、古くなった骨を壊して吸収(骨吸収)する「破骨細胞」と、新しい骨を形成(骨形成)する「骨芽細胞」が連携し、骨の老朽化を防いでいます。 骨代謝のバランスは、年齢とともに変化し、小児では、新しい骨の形成が骨の吸収を上回るため骨量が増加し、からだが成長していきます。一方、成人になると両者の活動がほぼ同じになるため、骨量も強度も一定に保たれるようになります。 ところが閉経後の女性や、男性も壮年期以降になると、骨吸収が骨形成を上回るようになります。骨密度が減少し、そもそも加齢にともなってコラーゲンが減少しているのと相まって、骨も弱く、もろくなってしまいます。骨折のリスクが俄然高まってくるわけです。 特に女性は、閉経による女性ホルモン(エストロゲン)の減少が急激に起こるため、骨密度が早い時期に低下してしまい、骨粗しょう症になりやすくなります。50歳以降の女性は、何も対策をしなかった場合、10人中4人が骨折するというデータがあります。 また、骨はカルシウムの貯蔵庫でもあり、血液中のカルシウムが足りなくなると、骨から取り出し、逆に血液中のカルシウムが多過ぎるときは骨に貯蔵する仕組みになっています。
どうして骨の新陳代謝は圧倒的に速いのか?
骨はからだの中で最も新陳代謝が旺盛です。年間7~40%というスピードは、血管や軟骨など他の組織に比べて圧倒的に速い速度です。 でも、どうして、そんなに骨の新陳代謝は速いのでしょう。 それは、動物が命を維持するためにつくられた、神の采配と言える気がします。 太古の昔、多くの動物は海から陸に上がって生活を始めました。海の中にいた時には、カルシウム、リンといったミネラルを海中で口から得て、からだの細胞に行き届かせることができました。しかし、陸に上がると、海の中にいた頃のようにミネラルを摂ることができません。 動物が運動したり、心臓、消化器などの臓器や器官を動かしたりするために直接働いているのは筋肉であり、その筋肉を動かすのはカルシウムです。筋肉をつくるよう指令を出すのもカルシウムです。 陸に上がってしまったことで、海の中で得ていたカルシウムなどのミネラルを得られなくなった動物たちに、神様は骨をつくってくれたのだと思います。 カルシウムの貯蔵庫である骨。神様は、その骨をつくったり壊したりといった新陳代謝を常に繰り返させることにしました。骨は破壊されることでカルシウムを体内に放出し、そのカルシウムがまた骨をつくるよう指令を出し、新たな骨ができあがります。 それが骨の新陳代謝であり、もしもこの活動が止まったら、骨からのカルシウム供給はストップし、あらゆる筋肉が動かなくなって、動物は死んでしまいます。そうならないよう、神様は骨の新陳代謝が絶えず旺盛に行われるようにしたのではないでしょうか。 人体の精緻さには、本当に圧倒される思いです。 【後編】『「骨密度」が高い人でも骨粗しょう症になる…骨の世界的権威が解明した「骨質」という要素』では、骨粗しょう症の治療において長年注目されてきた、骨の中のカルシウムなどのミネラル量である「骨密度」が高い人でも骨折することがあるという事実についてお伝えする。
斎藤 充(東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授)