白内障治療は選び方で医療費が10倍以上ちがう!…たった1歳違うだけでも値段が変わるカラクリ
69歳と70歳で費用が段違いに異なる?
それでは「70歳以上」を見てみる。 年収370万円以上の「現役並み所得」であれば、同じ3割負担で片眼6万円程度、両眼12万円程度で変わらない。 ところが、70歳以上で年収370万円以下の「一般」、または「住民税非課税世帯」の区分があり、その対象内では2割負担となっている。 70歳以上の2割負担では、両眼「1万8千円」あるいは「8千円」となっていた。 何と69歳と70歳では、10倍以上も費用に差があることがわかった。 筆者の場合、70歳の誕生日を迎えてから、白内障手術を受ければ、2割負担であり、所得も少ないから、「8千円」で済むらしいことがわかった。 目がかすむなどの白内障の症状はまだ初期段階であり、半年後の70歳の誕生日を待ってからでも、生活にほとんど支障はない。 当然、費用のことを考えれば、70歳になってから、手術を受けるほうがいいに決まっている。 ただ、「3割負担で12万円程度」であるのに、「2割負担ならば1万8千円あるいは8千円」となるのは、数学的にはおかしいことに気がついた。 それで、3割負担が「12万円」として、2割負担の金額を出すことにした。代数計算してXを求めると、答えは「約7万3千円」となった。 つまり、2割負担ならば1万8千円や8千円ではなく、約7万3千円である。 また75歳以上の後期高齢者に適用される1割負担ならば、「約3万7千円」が数学的に正しいことになる。 それが2割負担で「1万8千円あるいは8千円」とぴったりの数字になっている。これは数学的にはちょっとおかしいことになる。
診察や検査で費用がかさんでいく
となると、さらに減額される全く別のカラクリがあるはずだ。 市や県の担当課を取材してもわからないという。それで、厚生労働省に確認すると、ようやく「高額療養費制度」にたどり着いた。 「高額療養費制度」とは、医療費の家計負担が重くならないように、病院や薬局の窓口で1カ月間(1日から末日)の上限額を超えた場合、その額を戻してくれる国の制度である。当然、入院時の食費負担や差額ベッド代は含まれない。 上限額は年齢や所得に応じて、定められている。 その年齢の境となるのが、70歳誕生日の翌月であり、70歳以上と69歳以下では全く違っている。 70歳以上となれば、所得に応じて、自己負担限度額が決められていて、この限度額を超えて支払った分は、約2カ月後に還付される。 白内障手術の場合、入院しないで外来の日帰りで行うほうが費用は少なくて済む。外来の日帰りならば「1万8千円」あるいは「8千円」となる。 年収156万円~370万円までは「一般」に区分され、年収370万円までの70歳以上の人は、上限額「1万8千円」で白内障手術すべてがまかなわれる。 同じ月内であれば、1つの医療機関だけでなく、他の医療機関や薬局などでの支払いが「1万8千円」を超えれば、すべて戻ってくるのだ。 つまり、1つの眼科医院で12万円程度の白内障手術を行い、1週間後の検査や薬局での点眼薬などの費用など「1万8千円」を超えた分であれば、すべて戻ってくる。白内障手術以外に、歯科治療など他の保険適用の手術を受けても「1万8千円」が限度となる。 となると、なるべく、月初めに手術を受けたほうが費用は少なくて済むことになる。手術後に検査、診察を何度受けても、その月内であれば、超過分は戻ってくるからだ。 年収156万円未満の「住民税非課税世帯」はさらに費用負担が少なくなる。 つまり、月額13万円程度の所得者であれば、上限額「8千円」となる。筆者はここに該当する。 月額で30万円超の所得者であれば、公的医療保険は2割負担だが、高額療養費制度の恩恵を受けて、「1万8千円」が限度額となる。さらに月額約13万円の低所得者であれば「8千円」になる。 考えてみればわかるが、65歳を過ぎて、公的年金を主な収入で暮らしている人ならば、年収370万円以上の収入を得ている人は非常に少ないだろう。 70歳以上であれば、ほとんどの人が「1万8千円」あるいは「8千円」の自己負担で、両眼「12万円程度」の白内障手術を受けることができる。診察や検査、点眼薬などを含めれば、軽く12万円を超えてしまうだろう。 「高額療養費制度」は筆者のような低所得者に非常にお得な制度である。 世間では65歳から「前期高齢者」の老人となるが、何のメリットもない。 公的医療保険の世界では、「前期高齢者」は、2割負担となる70歳から74歳までと考えたほうがいい。75歳以上は後期高齢者となり、1割負担である。 つまり、厚生労働省は70歳になると、正式に「高齢者」として認めるわけである。65歳から69歳は高齢者扱いしていないのだ。 70歳になれば、筆者は、白内障手術だけでなく、白内障の検査、単焦点レンズ費用、事後検診、投薬などすべて「8千円」支払えば済むことがわかった。 70歳になることで、こんな大きなメリットがあることをみなさんはご存じだろうか? さあ、70歳の誕生日を迎えたら、「8千円」あるいは「1万8千円」で白内障の両眼手術を受けて明るい世界を取り戻そう。 ただ心配なのは、白内障患者は約4200万人にも上ると推計されることだ。眼科医たちは60歳で80%、80歳になるとほぼ100%が白内障となると言っている。 もし、70歳以上の高齢者がこぞって白内障手術を受ければ、公的医療保険はパンクしてしまうだろう。
小林 一哉