「戦後最長の好景気」は幻? 指標の弱さはノイズか景気減速か
第2次安倍内閣が発足した2012年12月から始まった「戦後最長の好景気」への見方が揺らいでいます。7日には内閣府が景気の基調判断を「下方への局面変化」に引き下げるなど、景気後退局面に入った可能性が指摘されています。「戦後最長」は幻だったのか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】アベノミクス以降で最も弱い「世界景気の瞬間風速」に懸念
「単月の触れ」が付き物の経済指標
ここ数週間に発表された日本の経済指標が驚くほど弱く、景気の冷え込みぶりを示しています。景気の風向きを示す「景気動向指数」は1月に前月差マイナス2.7ポイントと3か月連続で低下し、基調は明確に下方屈折しました(正確には景気動向指数のCI一致指数)。この指標は、景気の山谷がいつどこのポイントにあったかを判定する際に最も重要視される指標の一つですから、この指標が下を向いたままだと景気拡張期間が終わったという客観的判断になります。
つまり政府は「景気後退局面入り」を認めざるを得なくなるのです。なお、皮肉なことに2019年1月まで景気拡張が続いていれば、戦後最長の景気拡大が実現していました。つい数か月前まで確実視されていた「戦後最長の景気拡大」は、その実現可能性が急激に低下しています。 とはいえ、経済指標には「単月の振れ」が付き物ですから、3か月くらいの短いタームでは実勢に反した数値が出ることがあります。大型案件などで強めに出ることもあれば、天候要因などで弱めに出ることもあり、これらは景気循環と関係のない「ノイズ」と見なされます。今回の指標悪化も“騙し”の可能性があります。
2月のデータを見ないと答えは出せない
ノイズという点では、この1月の数値の弱さは中華圏の春節の影響を受けている可能性が濃厚です。2019年の春節は2月5日の月曜日でしたから、1月末で工場を止めた中国系企業も多かったと思われ、それを見越して日本からの部品などの輸出(中国からみると輸入)が1月下旬以降にストップした可能性があります。製造業が集積するアジアでは、ある国の工場が停止するとサプライチェーンが崩れ、各国の生産に影響が及ぶため、春節要因で日本の経済指標が不可解な動きを示すのは、よくあることです。この見方が正しければ、春節明け以降に反発しますから、景気減速と捉える必要はありません。 問題は1月データの弱さがどの程度、春節によって下押しされていたかです。2月データが1月の弱さを完全に取り戻せば、弱さの原因が春節となり、景気後退の懸念は杞憂に終わるのですが、これまでに入手した先行指標を見る限り、2月に大幅な回復を示すかは微妙なところです。速報性に優れた企業景況感が悪化しているほか、これまでに積み上がりが確認されていた在庫の処理に時間がかかるとみられるからです。 3月末にかけて発表される2月の生産、輸出関連のデータが弱かった場合、GDP(国内総生産)成長率はマイナスになる可能性が高く、日本経済の弱さが浮き彫りになります。驚くほど弱かった1月のデータが単なる春節要因だったのか、本当の景気減速だったのか。これは2月のデータを見るまで答えが出ません。したがって、2月の指標が弱いという結果になれば、戦後最長の景気拡大は幻だったことになりそうです。
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