<ネット作法>「8.6秒バズーカーは反日」説にみる炎上の原理 山本一郎
これらの問題は概ね有名人や権威ある組織やサービスが対象となるケースが多く、その根底にある、ある種の羨望が下地にあるのかもしれません。また、そのようなネタを好んで収集したり調べたりしている人材もネット上には事欠かないのも事実です。私も18歳からパソコン通信を始めて25年ほどネット社会を見てきましたが、この手の、ネット住民の嫉妬・羨望と脊髄反射による誤解に基づく正義感の発露というのは、飽きるほど繰り返されてきました。これはもう、社会としての摂理というか、人間の性(さが)としか言いようが無いのかもしれません。 この手の問題を称して「祭られるほうも脇が甘い」とするならば、いっそのことネットに素性をまったく晒さないことで燃料をネット住民に与えないか、炎上を「上等のもの」として受け入れられるキャラクター作りをするしか方法は無いのではないかと思います。「お前が言うな」と言われるかもしれませんが、ネットで炎上を見続けていると、やはり一定のパターンや周期があるように見受けられますし、ちょっとでも何か人に知られる活動をして、少し有名になれば必ずなんだかんだネットに書かれるのは宿命ですから、仮に炎上しても、いちいち見ないのが精神衛生上一番です。
それでも、ビジネスや風評に本気で差し支えが出てしまうことはあります。真偽不明の遊び半分なネットの噂話を信じて業務妨害をするように電話を大量にかけてきたり、自宅周辺をうろつく不審人物が出たりするのです。この場合の真の最終手段は、まとめサイトをまとめている本人に対して内容証明を送り、営業妨害であるとして告訴すると同時に、ネタの元となるまとめサイトを削除させることです。実際のところ、何か祭りが起きたとして、騒いでいる人は多くとも、数ヶ月ものあいだ騒ぎ続けられる人というのはとても少数です。 実際に起きた事例としては、とあるマスコミ関係者が、言われなき誹謗中傷で悩んで対策を実施した内容が教訓的です。炎上しているさなかでは数百人、数千人を相手に戦うような無謀を感じたようですが、蓋を開けてみると2ちゃんねるで騒いでいるのはせいぜい十数人、まとめサイトなどで定期的にありもしない疑惑をかきたてているのはわずか3人に過ぎませんでした。告訴されたまとめサイトの管理人は、うその話題が広がることが面白かっただけで、本人にこれといった恨みは無かったと言います。その3人も、結局は面識のない40代独身のサラリーマン、40代主婦と、30代の無職男性でした。おのおの、百万円に満たない和解金を支払ってサイトが閉鎖されています。 このような問題においては、過去にも殺人犯扱いされたスマイリーキクチさんのような事例もあり、一方でなお反日認定されてネット上で攻撃されているアグネスチャンの件もあります。犯罪や反日といった、ネット社会が敏感に反応するキーワードというのは扱いが大変ですが、ここを恐れて批判をされないように頑張って有名になったところで、必ず訳の分からない理屈を持ち出すアンチは出現するし、仕事が忙しくなり没頭していると、そういうのに構っている暇はなくなります。もうこれは、日本で名前を出して仕事をしていくに当たっては絶対におきるリスクなのだ、ぐらいに思ってやっていく以外ないのではないかと思います。 -------------- 山本一郎(やまもと いちろう) 個人投資家。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。投資業務とコンテンツ開発にかかわる。