<ネット作法>「8.6秒バズーカーは反日」説にみる炎上の原理 山本一郎
ネット上ではたびたび根拠不明の情報を元に「在日」疑惑を持たれたり、言ったことを間違って引用、解釈されるなどして炎上するという問題が多々発生して、繰り返し騒ぎになっています。 先日は、8.6秒バズーカーをめぐる炎上がおこりました。そこでは、「このコンビはそもそも日本人ではないらしい」とまで書いたサイトまで飛び出し、真偽不明の怪情報がネット内で乱舞した結果、騒ぎが大きくなると、所属する吉本クリエイティブエージェンシーが公式にこの疑惑を否定。週刊文春もネットでの書き込みを本人に直撃し、真相を確かめると、コンビ名の由来もネタの根拠も反日疑惑どころかたいした話でもないことが判明するなど、実にしょうもない話に発展しております。吉本は「現在、威力業務妨害での告訴など、様々な手段を検討している」との話ですが、なにぶんネットの噂がメインですから、面白半分に出た話がネットの中で増幅され、真実であるかのように独り歩きを始めるとどうにもならないというのが現実であります。
ネットの中には、このような「反日」問題や在日についてといった敏感なキーワードやニュアンスが伝わるとどうしても過剰反応を呼びやすく、「ネットで叩かれやすい人」や「ネット住民を逆なでしやすいキーワード」というのが存在します。ハードル競技で著名なアスリート為末大さんは、メディアで「才能無い奴はいくら努力しても成功しない」や「誰かを貶しめても自分の人生は変わらない」などと発言したとして、ネット上で叩かれ、おおいに炎上しました。しかしながら、為末さんが実際に喋ったり書いたりした内容はまったく趣の違ったものでした。炎上した内容は誰かが為末さんの発言を「意訳」し、炎上しやすいように内容を微妙に加工したものです。 参考:為末大さんのツイート 8.6秒バズーカーのように、いろんなこじつけもあって反日疑惑で難癖をつけられ、それを信じたネット利用者に盛大に祭られるケースは、為末大さんのような、発言の曲解から原文を当たらない人たちに誤解されて炎上するケースなどとも類似しています。 問題は芸能人や著名人だけに起きるものとは限りません。先日は、「スマホやめますか、信大生やめますか」と入学式で信州大学学長の山沢清人さんが講演して、炎上した事例もありますが、どれも「それが真意であると批判者本人が確認できたわけでもないのに、ソースに当たらず脊髄反射で批判、批難する」というパターンです。発言した中身を調べて、全文を読めばその真意が良く分かり、決して非常識なことや不穏当なことを述べているわけではありません。にもかかわらず、センセーショナルな見出しに一部分だけを刈り取られ、それを見たネット利用者の逆鱗に触れて炎上する、という図式はいまも昔も変わらないのです。 そして、飽きるまで炎上したあとは、燃料がなくなって自然に鎮火するか、「実はこうだった」などの別の情報がネット上に掲載されるとまともな人は納得し賛否両論になって落ち着く、という経路を辿るのが通常です。しかし、一度祭られると別の話が出たときに何度でも再燃する危険はあります。ネット炎上のややこしく、この「再燃性」とでもいうべき、ネットに残る傷としていつまでも参照されてしまいます。